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映画「ベル・カント とらわれのアリア」は2019年公開の日本大使公邸占拠事件を下敷きにした作品です。
主演には主演にはジュリアン・ムーア、助演に渡辺謙と加瀬亮という豪華な布陣になっています。
あらすじは南米某国の副大統領邸で起こったテロ事件ですが、そこで不思議な交流が起こるのです。
そこには物凄く深いメッセージやテーマがあると気づかせてくれます。
本稿ではそんな個室で育まれた不思議な友情と愛情の中身を徹底的に考察していきましょう。
また、残されたコスとゲンのその後や政府軍の真意なども併せて見ていきます。
ストックホルム症候群
本作の全体的な構造の大前提にあるものは「ストックホルム症候群」です。
ホソカワ達を含め国のお偉方が全員人質に囚われているのに、何故かテロリスト達と通じ合います。
物凄く殺伐とした空気になるはずが、密閉された状況に長時間いることで空気に変化が生じたのでしょう。
本来ならテロリストたちと大統領にいる人たちは決して交わるはずがない正反対の人種です。
それをドラマとして成立させるには犯罪心理の観点から見てストックホルム症候群しかありません。
またそのドラマを見事に演じられる力量と風格を備えた役者たちであることも大きな成功の要因です。
個室で育まれた友情と愛情
ストックホルム症候群で、個室では人質たちとテロリストに友情と愛情が育まれていきます。
本来であればただの仕事仲間或いは敵だった人たちが何故か絆のようなものを作り上げるのです。
ここではあらすじを追いながら、じっくり分析してみましょう。
趣味で通じ合うホソカワとコス
一番の目玉である実業家ホソカワとオペラ歌手ロクサーヌ・コスは何とお互いの趣味で通じ合います。
ホソカワは元々コスのファンだったという背景がありますが、ホソカワもコスにチェスを教えるのです。
決して一方的な関係ではなく、仕事を抜きにしたオフでの距離感の近い交流がそうさせたのでしょう。
人質にされやることがない状況がかえって彼らに心と時間のゆとりを持たせることになりました。
これはテロリストたちからすれば誤算でしょう。彼らはただ同志の解放が目的だったのですから。
どんなに格上の人たち同士でもこういうちょっとしたことの積み重ねで情は育まれていきます。
人間性を尊敬するゲンとカルメン
一方凄く真面目にお互いの人間性を認めたのがホソカワの通訳ゲンと少女テロリストカルメンでした。
その中でゲンはお互いの人間性を尊重し、本来なら正反対の立場なのが距離の近さで通じ合うのです。
そこにはもはや何が正しくて何が間違いなのか?という判断は意味を持たなくなってきます。
ホソカワとコスが双方共にステータスの高い地位から始まるのなら、こちらはプラスとマイナスです。
正反対だからこそ惹かれ合い、ゲンの持つ高い語学力と教養、そしてカルメンの純粋さに感じ入りました。
この辺りが非常に論理的に組まれているのがただの好いた惚れたに終始していない本作の秀逸な所でしょう。