出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B00KBQSSCU/?tag=cinema-notes-22

本作は文字通りある女性の色情狂を題材に物凄く深い根源的な「セックス」について扱ったデリケートな作品です。

鬼才ラース・フォン・トリアー監督の元シャルロット・ゲンズブールとステラン・スカルスガルドを主演に展開されます。

また本作での共演をきっかけにシャイア・ラブーフがミア・ゴスとの交際に発展したことも大きな話題となりました。

5時間半という映画史上類を見ない長さ故「Vol.1」「Vol.2」という区分けがなされているのも特徴的です。

本稿ではジョーが女性としてのセクシャリティを排除する意味をネタバレ込みで考察していきます。

またなぜ自分が悪い人間だと思っていたのか、あらすじを踏まえながらじっくり見ていきましょう。

理由なき性欲

性欲の文化史 1 (講談社選書メチエ)

本作は扱っている話題が非常にデリケートですが、単なるポルノ映画に終わっていないのには理由があります。

それは主人公ジョーの色情狂が過去の性的虐待によるトラウマだとか好きな人とする気持ちよさに起因しないからです。

彼女が只管世の男性と関係を持つのはもっと本能的な「食欲」「睡眠欲」と同レベルのことを意味します。

人間の根源には「食欲」「睡眠欲」「性欲」の三大欲求がありますが、この内性欲は何かと特別視されがちです。

しかも大抵の場合そこに男女の情愛といった記号的な「恋愛」が絡むためによりそう思えてしまうのでしょう。

本作では性欲を何でもない日常生活の一部として描くことで恋愛と性欲の不一致を徹底して書き分けているのです。

ジョーのやるセックスに理由などなく、ただ己の体に正直に生きた結果でしかありません。

まずこの基本をしっかり押さえた上で本題を考察していきましょう。

セクシャリティの排除

官能とセクシャリティ―「こころ・からだ・たましい」のレッスン

様々な男との肉体関係を貪ってきたジョーは最後セリグマンに「セクシャリティを排除する」と言います。

それまで性に翻弄され、性の為に世の中から忌み嫌われた彼女がそこまでする意味は何なのでしょうか?

「解放」ではなく「排除」

文化・メディアが生み出す排除と解放 (差別と排除の[いま]) (差別と排除の「いま」)

まず注目すべきは「解放」ではなく「排除」という極めて強烈な否定の言葉を用いていることです。

ジョーには単に性欲から解放されたいという前向きな救済ではなく、もっと後ろ向きな「反抗」の意志があります。

後述する自分が悪い人間と思った理由にも繋がり、ジョーは兎に角自身の色情狂の連鎖から逃げたかったのです。

それは女、即ち男から見た性欲の捌け口としか結果的に見られないことへの嫌悪感と罪悪感でありました。

つまり「排除」という言葉を使うこと自体が「セクシャリティ」への強烈な意識がある証拠です。

男に従属しない

ジョーは自身が「女」である限り男に黙って従うしかないことへの苛立ちもあったのではないでしょうか。

食欲と同じように性欲を貪ったとしても、男は結局何かしらの理屈をつけてジョーを支配しようとします。

それはジョーが自身の身の上を語ったセリグマンも同じで、彼も結局は浅ましい男の理屈でしか彼女を見れません。

つまり彼女は「女性であること」を排除することで男に従属しないという生き方を改めて宣言したのでしょう。

どんな男と関係を持っても自身の魂まで男に売り渡すようなことは一切していません。

そのような主体性の強さを改めてこの台詞によって形にしているわけです。

性に支配されない生き方

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よくこの「セクシャリティの排除」という意味を「救済」「贖罪」といった高尚な意味で捉えられがちです。

しかし、自分の欲に忠実に生きてきて辞められないことを自覚した人間がそこに向かおうとするでしょうか?

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