正にハインリッヒの法則で、1つの重大事故には29の軽傷事故と300のヒヤリハットが裏に絡んでいます。

TCASと管制の指示の不一致

そして最後の決定打となったのがTCAS(空中衝突防止装置)と管制室の指示が不一致であったことです。

TCASとは通常片方が「上昇」、もう片方が「降下」の指示を出すことで衝突を避けるように出来ています。

ところが何と「上昇」側を出すはずの管制室が真逆の「降下」という指示を出してしまいました。

かといって真逆の指示を出された上空のパイロット達がその指示に逆らえる訳もなく従うしかありません。

つまり全てはジェイク達管制室側の完全なミスと不調が積もり積もって起こったことになるわけです。

そしてこれが本作における大きな悲劇の始まりでした。

管制官を追いかけ続けた目的

オハイオ州コロンバス在住の被害者ローマンは最後まで管制官ジェイクを追い続けました。

驚きなのはこの殺人事件が本当に起こったという所で、正に現実は小説より奇なりでしょうか。

ローマンは数々の慰めがあったにも関わらずジェイクを追い続け、挙句の果てに刺殺してしまいました。

そこまで彼を駆り立てたものは一体何だったのでしょうか?

亡き妻子への謝罪

謝罪します

ローマンがずっと管制官ジェイクへ求め続けたのは亡き妻子に対する謝罪の言葉でした。

何故そこまでして求めたのかというと、彼は被害者側の満たされない思いを知らせたかったのです。

ジェイクも罪悪感に苛まれていましたが、彼は家族と別居することになれど直接の制裁を受けていません。

きっとローマンは被害者側として少しでもジェイクに直接の制裁を与えたかったのではないでしょうか。

でなければティサにわざわざ住所と偽名を教えて貰ってまで自宅へ行くなんてことはしないでしょう。

刺殺した理由

ローマンがジェイクを刺殺した理由、それは亡き妻子の写真を目の前で捨てられてしまったからでした。

これではローマンでなかったとしても殺したくなるのも無理はありません。

1番大切にしている人達を踏みにじった挙句、その1番大切な人達への思いすらも踏みにじったのですから。

ナイフを裏に忍ばせていたので、少なからず殺意や復讐心だってあったのでしょう。

そうした様々な負の感情が綯い交ぜになっていたからこそ刺殺へ繋がったのです。

もしこの時ジェイクが誠心誠意謝罪をしていればこの悲劇は避けられたかも知れません。

史実との違い

刺殺犯―警部補郷原弘 (徳間文庫)

ここでもう1つ史実との違いでの考察を加えると、史実では管制官が写真を捨てた上相手側を殴っています。

更に後述する息子とのやり取りなどは殆どなく、ここからが本作オリジナルの部分となっているわけです。

史実では理不尽なことに殺人罪で服役したにもかかわらずその後北オセチア共和国建設副大臣となっています。

本作ではそうした有耶無耶なまま終わった被害者側の気持ちとそこから生じた復讐へ向き合ったのでしょう。

そこに本作独自の答えが詰まっているといっても過言ではありません。

息子に謝罪した意味

服役を終えたローマンの元に現われたのは10年近くの月日を経て成長したジェイクの息子でした。

彼はローマンを父ジェイクを殺した仇討ちとして睨み、拳銃を突きつけます。

そんなジェイクの息子に対してローマンは謝罪の言葉を紡ぐのですが、その意味は何でしょうか?

ここに込められた本作の答えを紐解いていきましょう。

誠意ある謝罪を示すため

謝罪の作法 (ディスカヴァー携書)

1つは演出として当のローマン自身が「誠意ある謝罪」の出来る人であることを示すためでしょう。