そう、心が負けなかったとしても最終的に社会に理解して受け入れて貰えないと真の勝利ではありません。
フォールズ・シティに来たのは今度こそ自分を理解し受け入れてくれる場所が出来ると思ったからでした。
しかし、ブランドンは皮肉にも最初に受け入れてくれたジョンによってその願いを叩き潰されるのです。
リンカーンという生まれ故郷に戻ることはブランドンにとって敗北を意味するものではないでしょうか。
唯一の自由
上記から考察していくと、詰まるところこの手紙はブランドンの唯一の自由だったのではないでしょうか。
面と向かっていえないことも文章だと書けますし、また文章で書いたことは誰にも邪魔されることはありません。
結実こそしなかったものの、ブランドンの心の中でずっとラナは愛する人にして唯一の自由な居場所だったのです。
その唯一の自由こそがラナの心に大きな影響を与え、彼女をしてリンカーンで娘を産ませました。
ラナの娘の父
そんなブランドンの手紙に涙を流したラナはラストでリンカーンへ行き数年後に娘を出産しました。
果たしてその娘の父は誰で、この結末に何の意味を持たせたのでしょうか?
ブランドンと似た人
ラナの夫の正体は劇中で示されていませんし、史実にもこのような流れは存在しません。
なのでここは完全な想像ですが、恐らくはブランドンと似た精神をお持ちの男性ではないかと思います。
ブランドンもラナも決して品行方正ではない不良タイプでしたが、根っこの精神は非常に純粋でした。
それが性を超えた愛にも繋がるのですが、ブランドン程の人を愛したからには並の男ではないでしょう。
少なくとも実刑判決を受けているジョンとトムという可能性はありません。
リンカーンで得たもの
ラナはブランドンの手紙の約束を守りリンカーンへ行きましたが、ここは二人の出会いの場所でもありました。
とはいえ決して劇的なものではなく、最初はブランドンがラナの為に指輪を盗む所から始まっています。
そうした所からまずブランドンと辿ってきた軌跡や生き様を少しでも理解しようと努めたのではないでしょうか。
ラナは少なくとも出会ってから生き別れるまでのブランドンしか知らず、その奥深い過去までは知りません。
本当に愛した人だからこそ、少しでもいいから理解しようとリンカーンへ向かったのだと思われます。
出産の意味
その上で娘を出産した理由ですが、これはブランドンが”自分”を生きたようにラナも“自分”を生きた結果です。。
出産という行為は女性にしか出来ない行為であり、ラナは生物学的性も心の性も社会的性も”女性”であります。
ブランドンが超えられなかった性の壁を知ったからこそラナは女性の幸福を享受したのではないでしょうか。
こう書くと女性は子供を産む機械だと誤解されそうですが、そうではなくラナは意識して女性らしさを目指しました。
ブランドンと愛し合った日々を踏まえてのラナという人物の集大成がこの出産に集約されているのです。
性を超えた二人の愛
そんな気高い愛を持ちながらも決して結ばれることがなかった悲劇のブランドンとラナ。
二人の愛には確かに性の意識を持っていましたが、しかし決してそれだけではありません。
作品全体を貫いている性を超えた二人の愛について考察していきましょう。
愛という名の”戦争”
愛と書くと甘い印象を受けますが、ブランドンとラナの愛は“戦争”といっても過言ではありません。