彼らは心の奥底で父親の存在を欲していたのかもしれません。そしてその思いが権力者である提督への忠誠心につながったように見えます。
兄弟を支配する存在
ワームが提督から盗みを働いたと聞いて、イーライは「ありえないこと」と感じました。
兄弟にとって提督は雲の上の存在であり、彼らの人生を牛耳っている人物なのです。
逆に考えればそれほど絶対的な存在の指示でなければ、人殺しなどできなかった可能性もあります。
ワームの件で何の疑問も持たずに言われたことを鵜呑みにする兄弟を見ていると、提督は常に正しいと思っていたかもしれません。
何も考えたくないから自分の思考を停止させて、言われた通りに人を殺す。
そのために絶対的な権力を持つ提督は、兄弟にとっても都合の良い人物だったのかもしれません。
預言者の薬の正体
金を見分けるための薬を「預言者の薬」と呼んでいました。
これを巡って4人と提督が争っていましたが、この薬の正体とは一体何だったのでしょうか。
化学薬品
川にたらすだけで金が浮かび上がるという魔法のような液体として描かれていますが、実際は猛毒の化学薬品でした。
鉱山で地道に採掘するよりも、確実で短時間に金を発見できるのは画期的です。提督が目をつけるのも当然でしょう。
この液体の化学式さえ分かれば大量に生産できますから、それだけ多くの金が発見できます。
ワームがこの薬を高値で販売すれば、もしかしたらそれだけで彼の夢であった理想郷が作れたかもしれません。
自ら危険を犯してまで川に行かなくてもよかったのです。
すでに権力を持っている提督は、他人を現地へ向かわせて自分は安全な場所で待っているという賢い考え方をしていることが分かります。
つまり上に立つ人間と、その人に従う人間とでは根本的に行動が異なるのです。
もし理想社会を作っても、従う側にいたワームが社会のシステムまで構築できるとは考えにくいでしょう。
平等を重んじた結果の惨劇
預言者の薬が大量に流れた川でワームとモリスが命を落としました。
他の3人はともかくとして開発者のワームは薬の危険性を理解していたはずです。
本来なら彼だけが薬を扱えるように厳重に保管すべきだったのではないでしょうか。
ですがワームがそうしなかったのは、自分だけが薬を扱える環境は立場の上下を生み出すと考えたからかもしれません。
民主主義的で平等な社会を目指していた彼にとって、偉いのは誰かなどという話は絶対に出したくなかったのだと思われます。
ワームの考えは、権力者に食い物にされてきた弱者を救うとても素晴らしいものでした。
それだけに彼の目指す平等が結果として彼自身を滅ぼしてしまったことは非常に残念です。