それら一つ一つとしっかり向き合い投げ出さなかったこそ二人は結ばれたのではないでしょうか。
純愛物語というベタな物語だからこそ、二人が歩んできた内実の重さがその根拠となってくれるのです。
模型を康平に返した紗枝の心情
さてもう一つ、大きな意味を持ったのが康平が紗枝に向けて作った漁船の模型です。
彼女はそれを肌身離さず持ちながら、一度はそれを康平に返しました。
この時の紗枝の心情とはいかばかりのものだったのでしょうか?
過去との訣別
一番はまず康平と幼馴染の結婚したことと併せて過去との訣別だったのではないでしょうか。
いつまでも未練を引きずっていては人は前に進むことは出来ず、足枷となってしまうでしょう。
過去に持っていた執着を手放すことでまた新たな道を切り開くことが出来るのです。
それは紗枝自身が新しく海外で将来を作り上げていくという決意の表れでもありました。
帰ってきた模型の意味
しかし、奇妙なことに紗枝の元にその手放した筈の模型が何故か戻ってくるのです。
普通であればこんな奇跡は起こり得ないはずなのですが、奇跡だったのでしょうか?
いいえ、そうではなく本当に自分にとって大切な物はいずれ戻ってくるように出来ています。
これを“五行の法則”といい、本当に素晴らしいものは形を変えて循環するのです。
二人の関係は決して出会って別れて終わりではなく寧ろより深まって強化されています。
エロスではなくアガペー
こうして見ていくと、本作はいわゆる巷にある「恋愛映画」というよりは人間ドラマといえるかもしれません。
康平と紗枝は決して劇的な感情の変化があったのではなく、10年を歩んでいく中で現実と共に変質したものです。
お互いしか見えていない愛、即ち”エロス”が現実を乗り越えて無償の愛、即ち”アガペー”へと昇華されたのでしょう。
ちゃんと現実の辛さを味わっていったからこそよりお互いの弱さも、そして強さも受け入れ乗り越えられました。
順風満帆な人生ではありませんが、挫折と失敗を繰り返してきたからこそ出せる深みが本作の愛ではないでしょうか。
まとめ
本作が康平と紗枝の愛を通して描いたものは何だったのかというと“人生”ではないでしょうか。
決して大袈裟ではなく、出会いと別れをはじめ様々な生老病死が康平と紗枝を襲いました。
しかし、だからといって傷の舐め合いではなく個々の力で乗り切っていきます。
二人が結ばれたのはあくまでもその人生の試練を乗り切った先の結果でしかありません。
だからこそただの浮ついた恋愛ではなく、リアリティーのある人間ドラマになったのです。
非常に絶妙なバランスでもって作られた名品でありました。