更に二人で愛し合い100万ユーロを使って何でも出来ると愛情すら見せているのです。
しかし、これは当然ながら表向きの理由であるから完全な嘘でしかありません。
事実を隠蔽するためにルーカスの妄想癖と虚言癖が作り上げた嘘偽りのハリボテでしかなかったのです。
事実は逆だった
しかし実際の所はこれと正反対で、ゲーム参加を迫ったのはクロエではなくルーカスの方でした。
彼はクロエを誘き寄せるためにこそこのゲームを考えたのです、自分を捨てた恨み辛みから。
勿論その中には母親とのことなどもありましたが、兎に角彼は自身を認めさせたかったのでしょう。
皮肉なことにクロエも母と全く同じ「人生と向き合いなさい」という言葉を口にします。
この時完全にルーカスの中でクロエは元恋人から母と同じ殺すべき存在になったに違いありません。
願望の表れ
即ち冒頭から終盤で落ちが明かされるまでの一連のシーンはルーカスの願望の表れでしょう。
脱出ゲームを企画したのは他ならぬルーカス自身であり、電気椅子も精神病院も周囲の人物もそうです。
彼自身が望んだからこそ起こったことであり、それが事実は正反対であったという形になりました。
こうして見ていくと、本作は最終的に怖さと同時に切なさ・寂しさといった情緒も帯びてきます。
それはルーカスを演じたジャッカス・クルーガー自身の役者の力量も大きいのではないでしょうか。
彼が演じたことでルーカスもただの殺人鬼ではなく、裏に捻れた心を抱えている複雑性を持った人となりました。
ヤコブの梯子の意味
そして本作では脱出ゲームから脱出するために聖書からヤコブの梯子を引用しています。
これは雲間から差し込む一筋の光の象徴であり、天国へと誘う希望の象徴でもあるのです。
しかし、彼がそれを上っていくためには毒親から、そしてクロエからの自立を果たさないといけません。
彼は誰よりも自身の心の救済を持ちながら、二人の身近な女性を殺したことでその可能性すら絶ちました。
もうこれで彼はヤコブの梯子を一生掴むことは出来なくなったのです。
そう捉えると、本作は誰よりも救済と精神の自立を必要としたのにそれが出来なかった男の話かもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本作は前半で散りばめた伏線が後半で回収され予想外の結末を生み出したサイコホラーです。
方式自体は既に使い古されているものの、そこに毒親などの要素を付け加えることで新鮮さを保っています。
また、ヒロインである筈の元恋人が実は逆にルーカスから離れたかったという逆転の構造も見事です。
本作はそのように一見王道のパニック映画のようでいて実はテクニカルに動きを仕掛けています。
精神的な脱出を望みながらそれが出来なかった悲しき天才青年の物語として実によく出来ていました。