このように国家権力の人間に扮すれば余程のプロでも無い限り犯人だと見抜くのは至難の業です。
只の過激派というだけではなく、的を絞った無駄のない戦略的思考もブレイビクの怖さでしょう。
かくしてこの銃乱射事件はノルウェー史上類を見ない大規模テロへと発展したのです。
唯一の失策
そんな知能犯テロリストのブレイビクですが、一点だけ失念していたことがありました。
それは警察に扮していながら一人で行動していたことであり、これは明らかな失策です。
警察が事件捜査を行う場合規模の大小にかかわらず最低二人以上のバディシステムで行動します。
ましてやテロ事件の捜査という名目であれば二人だけではなくもっと大人数で捜査にかかるでしょう。
そこが単独で行動したブレイビクの数少ない汚点の一つであり、警察に扮する場合は仲間を用意すべきでした。
巧妙かつ洗練されたテロ事件でしたが、この時点で既に彼のテロ計画は破綻していたのです。
マグナスが将来の夢を聞いた意図
物語の終盤ではマグナスがカヤに将来の夢を聞くワンシーンがありました。
中々に色気があるシーンですが、命がけの状況でこんなやり取りをする余裕はないはずです。
果たしてこのやり取りを挟んだ意図は一体何だったのでしょうか?
カヤをリラックスさせるため
目的の一つ目は緊張状態でガチガチになっているカヤをリラックスさせるためです。
カヤは自分が生き延びること以上に妹のことを心配してウトヤ島に残りたがりました。
そのような極限の状態では精神の糸がいつ切れるのか誰にも予想がつきません。
だからこそ糸が切れる寸前に少しでもほぐそうとしたのではないでしょうか。
マグナスのそうした気遣いは無事に伝わり、やや良い雰囲気となりました。
生き延びた先にあるもの
二つ目にこの襲撃事件を生き延びた先にあるものを見据えようとしたのではないでしょうか。
生命の危機に瀕すると普通人はそんな先のことを考える余裕などありません。
しかし、ここでお互いに国会議員や役者といった目標を述べることで視野が狭くならないようにしました。
こうすることで緊張状態の中でも常に冷静かつ平常心で居られるようにしたのです。
これがあるかないかで二人の精神の余裕もだいぶ異なったのではないでしょうか。
受け手を落ち着かせるため
そしてもう一つ、このワンシーンがあることで受け手は非日常の中の日常シーンだと安心するのです。
本作が72分間ワンカットの長回しにした目的は受け手にそこに居るかのような臨場感を持たせる意図がありました。
即ち受け手をカヤに感情移入させ、否が応でも精神を緊張状態へ追い込み晒すことになります。
そこでこういう夢を語らう他愛のないワンシーンがあることで受け手の精神もややリラックスするのです。
本作は受け手にカヤに共感して貰うことを目的としているので、ここでその目論見は果たせたのではないでしょうか。
カヤの生死の真相
マグナスとの将来の夢に冠するやり取りの後、物語はクライマックスへと突入します。
カヤは果たしてこの襲撃から無事に生き延びることが出来たのでしょうか?