出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07P3KPCC7/?tag=cinema-notes-22
村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を原作として2018年に公開された韓国のミステリー映画『バーニング 劇場版』。
監督は『シークレット・サンシャイン』『ポエトリー アグネスの詩』を代表作に持つイ・チャンドンです。
主演をユ・アインが、脇をスティーブン・ユァンやチョン・ジョンソが演じています。
第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、作品の完成度の高さから例えば以下を受賞しました。
Asia Pacific Screen Awards Jury Grand Prize
Asian Film Awards Best Director引用:https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_accolades_received_by_Burning
内容はジャンスとヘミとベン、三人の一見淡々としていながら実に不透明さに満ちた物語が展開されます。
そこで本稿ではジョンスがベンを殺して燃やした真相をネタバレ込みで考察していきましょう。
またビニールハウスを燃やす意味やヘミの行方なども併せて掘り下げていきます。
どこか”歪んでいる”者達の物語
本作はジョンスとヘミとベンの独特な三角関係の描き方故にミステリーやサスペンスに見えるといわれます。
しかし、それは極めて表層の部分でしかなく奥底では凄く丁寧に“歪んでいる”者達の心情を描いた物語です。
本作はそれを直接に出すのではなくちょっとした台詞回しや物、動物などで間接的に暗喩しています。
それが感情としてではなく行動の結果としてのみ示されるため端から見ると謎めいて見えるのでしょう。
本作を考察していく上で一番大事なのは目に見える側に囚われず奥深くを読み解いていくことではないでしょうか。
ジョンスがベンを殺して燃やした真相
まず本作最大の謎にして見所にもなっているのがジョンスがベンを殺して車ごと燃やしたラストです。
二人はヘミを巡って奇妙な友情でも仕事仲間でも幼馴染でもない微妙な関係性にありました。
決して諸手挙げて好いていたわけではないですが、殺伐とした空気の間柄かというと疑問です。
一体この殺人の裏にはどのような真相があったのかをあらすじを追いながら読み解いていきましょう。
客観性のない決めつけ
この殺人シーン、実は端から見ると決定打となる証拠は何もなく完全なジョンスの決めつけなのです。
確かにビニールハウスを燃やす発言やジョンスとヘミを大麻に誘ったりと狂気じみた言動・行動が目立ちます。
また、何故かヘミの腕時計がベンの家の戸棚に飾られていたり、彼女の恋猫のボイルまで居ました。
しかし、それらは全部”ヒント”の領域を出ずベンがヘミを殺した客観的証拠といえる程の決定打ではありません。
となればジョンスはヘミの失踪がベンの殺害か本当に只の失踪かを確認しないまま殺したことになります。
決めつけほど事態を拗らせ悪化させることはなく、しかしながら何故そうまでして殺そうと思ったのでしょうか?
“持つ者”と”持たざる者”
まずジョンスが殺そうと思った最大の動機は“持つ者”と”持たざる者”という身分の違いにありました。
ジョンスは小説家志望といいながら執筆シーンは全くなく、行動が全く伴わない口だけ人間です。
一方のベンは裕福な家庭に育ちながら、その気になればベンを全裸で踊る気にすらさせる男でした。
特別な才能も実績も金もないジョンスからすればベンという男は嫉妬と羨望を山積させる塊なのです。
そもそも二人は身分や育ってきた環境から全く反りが合わないという大前提がありました。
かといってその認識のズレや温度差を埋めようともせず、こうして心の闇がどんどん溜まっていくのです。