ある意味一番本作において可哀想な犠牲者であり、やり場のない鬱屈とした思いを抱えていました。
イギリスへの復讐や両親の仇討ちといった執着が殊更に強調して描かれるのもそういう演出意図でしょう。
それまでのシリーズにはないほど複雑で陰性の強い悪として描かれています。
夢破れた世代
二つ目にアレック自身が決して恵まれた状況にはない、夢破れた世代の象徴ではないでしょうか。
彼は小さい頃から両親が酷い裏切りに遭い、信じていた国家に裏切られるという辛酸を舐めさせられました。
それは同時にアレックが夢見ることが叶わない、夢を持つことを断念させられたことをも意味します。
そしてそのエネルギーを国家への復讐という形でしか昇華出来ず向けられなかったのです。
だから彼の回りにはウルモフ将軍やオナトップなどのような夢破れた人達しか集まりません。
ジェイムズ・ボンドの暗黒面
そしてもう一つ、アレックはジェイムズ・ボンドの暗黒面という本質がその正体ではないでしょうか。
ピアース・ブロスナン演じるボンドは歴代の中でも最もスマートで癖も隙もない完成度です。
しかし裏を返せば完璧超人過ぎて人間味が希薄であり、だからMは罵倒紛いの指摘をしたのでしょう。
そんなボンドとは正反対にどこまでも人間くさく、どこまでも過去の狂気を引きずっています。
もし運命が一歩違えばボンドもアレックのような復讐鬼と成り果てていたかも知れません。
ラストの死闘での二人の結末が端的にそれを物語っているといえるでしょう。
結末の意味
そしてラストではボンドガールのナターリアとボンドがヘリから降りて草原で抱き合います。
このシーンが示しているのはただの結ばれて万々歳というシリーズのお約束だけではありません。
それはジェイムズ・ボンドが冷戦の遺物ではなく今を生きられる男として戻ってきたことを意味します。
彼は決してアレック達冷戦の遺物の狂気や復讐といったマイナスエネルギーに囚われませんでした。
寧ろナターリアと共にその問題に真正面から取り組んで「生き延びる」方向へとシフトしています。
草原というシーンと併せてやっと冷戦終結を迎え真の平和が訪れた証ではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本作は冷戦時代の産物だった007シリーズを見事に冷戦から脱却させ新時代のヒーローとして再生させました。
アレックを中心とした犯罪組織ヤヌスの魅力と冷戦の遺物から脱却を果たした新ジェイムズ・ボンド。
作戦内容もより現代的なタッチへと変わり正に新時代の幕開けに相応しい作品となりました。
本作を皮切りにまたもや007シリーズは息を吹き返し、今も尚連綿と形を変えて受け継がれています。
007シリーズはまだまだ可能性を秘めていると感じさせてくれた良質の作品として残り続けるでしょう。