冷戦以降いわゆる「巨大な悪」が不在の中で一体何がこの社会に潜む悪なのかも分かりにくくなりました。
007が90年代以降ずっと苦しんできたのもその社会に潜む悪という時代の本質が見えなかったからです。
しかし、国家を転覆させるテロリズムは大規模な破壊ではなく裏から巧妙に仕掛けるものとなりました。
日本でもこの年オウム真理教が正に「身近に潜む悪」としての迫力・リアリティを現実に示しています。
これは同時にジェームズ・ボンドの戦う敵がより複雑化した証でもあるのではないでしょうか。
ゴールデンアイは何をするのか?
さて、本タイトルにもなっているゴールデンアイが本作における最大のマクガフィンです。
ボンドガールのナターリアと共に任務として追うゴールデンアイとは何をするものでしょうか?
ここではその役割について読み解いていきましょう。
地上の電子機器の破壊
まず最初に明かされたのは物語中盤でロシアの宇宙兵器開発センターを襲撃した時でした。
何とゴールデンアイの目論見が地上の電子機器を破壊する軍事衛星へアクセスすることにあったのです。
この辺りの設定考証も上手で、あくまでも攻撃範囲を地上の電子機器のみとピンポイントにしています。
なぜこの作戦が有効なのかというと、現代社会が電気なしでは生きられない社会だからでしょう。
そうした現実の社会が抱える脆弱性を利用したプログラムというのがゴールデンアイの正体です。
不正アクセスの隠蔽
上述した銀行強盗の真の目的もゴールデンアイを用いて銀行強盗の不正アクセスを隠蔽することにありました。
それ一つあればどんな不正や悪事だってもみ消せるという名前が表わす通りの凄まじいプログラムです。
つまりデータ上のやり取りさえどうにかすれば証拠を残すことなく完全犯罪が成立します。
この電子機器の破壊とデータ抹消という攻防一体のプログラムこそがゴールデンアイのタチが悪い所です。
正にこれこそ本作最大の冷戦の遺物といっても過言ではないでしょう。
サイバーテロの台頭
ネット社会が発達した現代に置き換えるとゴールデンアイはそのままサイバーテロの台頭といえます。
95年当時PCやインターネットは軍事目的で一部の人間のみが扱える特別なものでした。
そんな時代に現代社会がこれから辿るであろう未来を予見していたかのように登場しています。
今では裏からハッカーがネットで戦争や犯罪を仕掛けて社会を混乱に陥れるのは珍しくありません。
そのような時代の到来を告げる代物だったことを示しているのではないでしょうか。
アレックの正体
銀行強盗でも出てきましたが、改めてここで本作最大の敵であるアレックの正体について考えてみましょう。
彼は中盤に自身が元はコサック族でイギリスへの復讐目的で動いていたことが明かされました。
ここではより踏み込んで彼が何者で何を目論んでいたのかを掘り下げていきます。
過去を引きずった男
アレックは本作においてジェイムズ・ボンドと並ぶ「冷戦の遺物」としてその狂気と共に描かれています。
そんな彼の正体は一つには冷戦という過去を引きずった男という歪んだ存在であることです。