出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B000G1R3RQ/?tag=cinema-notes-22
映画『パリ、テキサス』は1984年公開のサム・シェパードの原作『モーテル・クロニクルズ』をモデルとした作品です。
ヴィム・ヴェンダース監督がアメリカのテキサス州パリスを舞台にしたロードムービーとして制作しました。
主演はハリー・ディーン・スタントンとナスターシャ・キンスキー、音楽はライ・クーダーという豪華布陣です。
物語は4年前に妻子を捨てて失踪した自由人気質のトラヴィスに振り回される弟・ウォルトという構図で始まります。
物語は何も難しい要素はないのですが、一人旅に出た男の家族との再会は多くの人の共感を呼び、以下を受賞しました。
第37回カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/パリ、テキサス
今回はマジックミラーに象徴される意味をネタバレ込みで解説していきましょう。
またのぞき部屋がある理由やパリとテキサスを繋ぐものについても併せて読み解きます。
家族、その愛と別れ
本作全体の特徴はトラヴィス一家の愛と別れについて語られたものであるということです。
ロードムービーということで牧歌的ですが、物語の本質は極めて悲しく晴れない寂しさが付きまといます。
設定だけだと一家を捨てて一人旅に出た身勝手な父の話ですが中身は凄く複雑に入り組んでいます。
非常に面白いのは80年代において既に家族の絆がどれだけ嘘くさいものであるかを説いていることでしょう。
どうしてもバラバラになった家族を題材にすると最終的に一家が再生する話になりがちです。
そのセオリーに大胆に逆らいつつ、家族愛について深く切り込んだのが本作ではないでしょうか。
そうした観点からトラヴィス一家の家族愛がいかなるものかを見ていきます。
マジックミラーに象徴される意味
本作の代名詞ともいわれるのが母のジェーンが働くいかがわしいお店の「マジックミラー」です。
ここでトラヴィスとジェーンは鏡1枚を隔てて電話1本で会話することになります。
果たしてこのマジックミラーは何を象徴しているのでしょうか?
深くて暗い川
1つ目がトラヴィスとジェーンの間にある深くて暗い川の象徴です。
家族で夫婦といえど所詮は赤の他人同士であり心底から分かり合うことはありません。
凄く近くに居るのに電話を通して鏡越しでしかお互いの愛を確かめられないのです。
しかもその鏡はお互いを同時に見ることは出来ずジェーンにはトラヴィスが見えません。
それ程2人の間には絶対に埋まることがない深い溝があることを示しているのです。
嫉妬が狂わせた家族愛
このようになった原因はトラヴィス自身が愛から引き起こした嫉妬でした。
彼はうら若き10代後半のジェーンを愛する余りに嫉妬で全てを独占しようとしたのです。
その嫉妬は余りにも重たすぎて苦しすぎて、息子と共にジェーンの重荷になってしまいました。
即ち嫉妬によって狂い二度と元には戻らない家族愛という見えない壁でもあるのです。
単なる男女の断絶というだけではなく二度と3人一緒に居られないシビアな現実も意味しています。