そこがあったからこそベンヤミンはハンネ以外の捜査官を相手にせず、彼女の牙城を切り崩しにかかりました。
災い転じて福と成す
要するに上記してきたことを一言でいえば「災い転じて福と成す」となります。
ベンヤミンはMRXの情報という本当に知りたい部分だけは正直に話しますが、後の部分を嘘で塗り固めるのです。
しかし、この渾身の二重に渡って仕掛けた嘘もラストでハンネが既に気付いていることを認めています。
MRXにも正体がバレるわ中学時代の片思いの同級生には振られるわとベンヤミンは物凄く不器用で隙の多い人です。
しかし一度自分で決意したことを本気で貫きやり通す気概とリスクを恐れない精神力は目を見張るものがあります。
どれだけピンチに追い込まれても、それすら全部自分の強さへと変えていける人なのではないでしょうか。
表面上の技巧や知性の部分を取っ払って奥底まで見ていくと実はベンヤミンの「強さ」が見えてくる図式が見事です。
ハンネが逃した理由
ラストでハンネはベンヤミンにCLAYの件や多重人格などの情報が全て嘘であることに気付きます。
しかしながら彼女は何故かそれが全部嘘だと知っておきながらベンヤミンを逃すのです。
果たしてその理由がどこにあったのかを考察していきましょう。
欲しがっていたのはベンヤミンの情報ではない
最後に角砂糖の例え話で語られていたように、人はあくまでも「見たいものしか見ない」生き物です。
この視点で考えていったときにハンネが一番欲していたのはあくまでもMRXの逮捕に繋がる情報でした。
つまりベンヤミンの情報に関してはあくまでも二次情報であり重要度は然程高くありません。
ハンネの中でどれだけ問い詰めて知ったところで、心のフィルターで振るい落とされています。
そんな重要度の高くない情報を個人の詮索で決めるのは得策ではないと睨んだのではないでしょうか。
明確な証拠がない
二つ目にベンヤミンがついた嘘が嘘だと100%証明できる客観的証拠が欠けているからです。
母親の話やマリの話、そして多重人格の話なども嘘だとされましたが本当の所はベンヤミンしか知りません。
嘘発見器などでそれらを暴き出しても、逮捕する為の決定打としての効力は弱くなってしまいます。
そこを分かっていたからこそハンネは無理をせずにベンヤミンを逃したのではないでしょうか。
「証人保護はコンピュータープログラミング」と口にした時点で既に逃す方向でいたことが窺えます。
優しい嘘
ベンヤミンがついた嘘は結果としてMRXの逮捕を除けば誰一人傷つけない嘘だったからです。
ハンネの名誉回復にも繋がる証拠を提供し、更にベンヤミンもその仲間達も守っています。
自首とはいいながらも、ベンヤミンは奥底で根の良い人だと気付いていたのではないでしょうか。
もしこれでわずかでもベンヤミンに邪心があればハンネは何としてでも逮捕しようとした筈です。
真実を追究することが必ずしも最善の結果に繋がるとは限りません。
この選択がハンネを杓子定規にルールで人を裁く捜査官にせず人間的な魅力を増しているのです。
多重人格に見せかけた目的
上記したように、ベンヤミンは仲間のマックス達のことを母の遺伝で生じた多重人格に見せかけました。
彼は何故そんな大がかりな嘘をつく必要があったのでしょうか?