彼の参加によって刑事の自白強要の事実や金子自身が初めから否認していたことが明白になっていきました。
しかし一審判決を根底から覆すほどの新たな証拠がなければたった1回の審理で結審するのが通例といわれている控訴審。
そもそも当事者の証言以外に証拠がないのが痴漢事件の特徴です。
弁護団は『なぜ無理やり起訴されたのか』という初動の問題点を突く以外方法は無いでしょう。
そこで生きてくるのが第7回公判の最後で荒川弁護士が言ったセリフです。
「ただ今の証拠決定に異議を申し立てますので事務官は記録にとどめておいてください」
引用:それでもボクはやってない/配給会社:東映
さすが元裁判官のベテラン弁護士ですね。これなら控訴審でも採用されなかった証拠の再提出を認められるかもしれません。
もしかしたら留置場担当の警察官である西村青児も証言台に呼ばれるのではないでしょうか。
彼は釈放される鉄平にこう言っているのです。
「ここだけの話なんだけどね、担当刑事がまさか起訴されるとは思ってなかったって言ってたよ」
引用:それでもボクはやってない/配給会社:東映
控訴とは
『控訴』はテレビや映画で良く耳にしますが、実際はどのようなものなのかを少し知っていれば今後の考察に役立ちます。
そもそも控訴とは日本の裁判制度である三審制度の2番目にあたるものです。
地方裁判所や簡易裁判所での一審判決に不服がある場合にとる手段で、鉄平の場合は痴漢事件なので地方裁判所でした。
控訴審(二審)は高等裁判所で裁判官は3名と決められていますが逆転勝訴は難しいのが現状です。
一般に高等裁判所は多数の事件を抱えて多忙であることが多い。
民事訴訟の場合控訴しても1回で結審し原審通りの判決が出される割合が7割程度といわれている。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/控訴
鉄平が犯人扱いされた理由
初めから一貫して否認している鉄平がなぜ起訴までされてしまったのでしょうか。
無実だろうが関係なく認めてしまえば帰してやるということが実際にあるとしたら本当に恐ろしいことです。
この映画を観た人は男女を問わず自分に置き換えて考えたことでしょう。
『あなたならどうする』と問われているような気分になります。
女子中学生を追い詰めたもの
女子中学生は痴漢被害に何度もあっているようでした。15歳という幼さを考えると同情を禁じえません。
何度も被害を受けた彼女の感情は恐怖より怒りの方が強くなっていったと推察できます。
その怒りの感情が『弱そうに見える鉄平』を犯人だと思い込ませたのです。
しかし彼女は裁判にまで出廷することになるとは考えていなかったでしょう。
もしかしたら再び痴漢にあっても同じ行動はとらないかもしれません。
彼女を追い詰めたのは同情を装う男性会社員や鉄道員、そして優しく接する警察官でしょう。
ここまで来たら後には引けなくなったのだとしたら鉄平と同じです。
鉄平を犯人にした人たち
中学生を追い詰めたそれぞれの立場は『良心の人』です。
しかしその心の底は女子中学生を弱者とする薄っぺらな正義感が流れるだけで、問題を解決する意思などありません。
犯人を特定したヒーローになった気分の会社員もどんどん記憶を都合よくすり替えていきます。
自分の都合の良いように記憶をすり替える人間の本能こそ痴漢冤罪事件の根源なのかもしれません。