引用:https://www.amazon.co.jp/dp/B0794VG3MX/?tag=cinema-notes-22
山田洋次が監督を務め、主演を橋爪功、夏川結衣や蒼井優、西村まさ彦らが脇を固める『家族はつらいよ』。
周造と富子、文枝と幸之助、庄太と間宮憲子の平田家と、平田家次女夫婦の金井成子と泰蔵夫婦が織りなす、心あたたまる作品です。
映画は周造と富子夫婦の離婚騒動を中心としてストーリーが展開し、その中にはそれぞれの夫婦間の様相も見え隠れしていました。
一方疑問点もあり、周造がなぜ離婚届にハンコを押したのか、その理由が気になります。
さらには、ハンコを押す直前に『東京物語』を見る周造ですが、周造はそれを見ながら一体何を思っていたのでしょう。
最後には、富子が周造のハンコが押された離婚届を破り捨てていました。
なぜ富子は求めていたはずの離婚届を破ったのでしょうか。今回はこれらを考察していきます。
家族の言葉
本作は、家族関係を円滑にするために「言葉」を伝えることの大切さが示されています。
離婚騒動の中心にいる周造は、今回の騒動で家族から多くの言葉を貰っていました。
富子の言葉
周造が離婚届にハンコを押す動機として、最も心を動かしたのはやはり富子の言葉でしょう。
あたしの好きなように生きてみたいの。以上です。お父さんの口癖を借りれば
引用:家族はつらいよ/配給会社:松竹
これは家族会議で出された富子のです。これ以前にも、富子が周造のことを嫌っていることが語られてきました。
当然周造にとって、それらの言葉が胸に響いたはずですが、最もきつかったのはこの言葉でしょう。
何といっても長年連れ添った相手が、これまで周造が言ってきた口癖がブーメランになって返ってきたのです。
自分がどれほどひどい言葉をかけてきたのか、周造はここで初めて深いところで理解したため、ハンコを押すのでした。
庄太の言葉
周造と富子には三人の子どもがいます。その中でも、庄太はこれまで家族の接着剤の役割を担ってきました。
平田家が現在まで、なんだかんだ一緒にいられるのは庄太の果たす役割が大きいのです。
よく分かるよ母さんの気持ち。父さんが悪い。絶対悪い謝るべきだ
引用:家族はつらいよ/配給会社:松竹
そんな庄太が完全に母親の味方をして、周造を責め立てます。
周造といえど、庄太がいてくれたことの大きさは分かっているはずです。その庄太が言うこの言葉に、周造は自分の責任を感じたのでした。
これら家族の言葉が、周造自身に「自分が悪い」と気付かせるものとなったのです。
引っ込みがつかない
平田家の家族の言葉を聞いていると、10:0で完全に周造が悪いです。
しかしそれに対して周造が取った態度が、ある意味開き直りとも取れた態度でしかありませんでした。
というか、周造にはそれしかないのです。
45年間の亭主関白
映画内での周造は、まさに昭和日本の「亭主関白」です。庄太の言葉を借りるなら「前近代的」な様子そのもの。
周造と富子は、45年間夫婦として付き合ってきており、亭主関白なのは結婚当初からの関係性でした。
富子自身も結婚当初はこの周造が好きだと語っていましたが、今はその周造が嫌いだとも語ります。
しかし周造から見れば、45年間の亭主関白は気付きようがありません。
それを今更変えるなど、到底できるものではないでしょう。では、それを嫌う富子とどうするのか。
当然離婚しか選択肢はないでしょう。
悪いと思ってこなかった
映画の中での周造の生活スタイルは、はっきり言って亭主関白なんて言葉でも収まらないくらい自分勝手です。
しかし周造にとっては、それが当たり前であり、今回富子の言葉を聞くまで気付かなかった自分の「悪い点」でした。