これが意味することは何かというと音楽家はあくまでも演奏で自身を表現するものだということです。
ただ単に両親と演奏会で抱き合って感動の再会を描くだけならば演奏会は必要ありません。
そう、音楽の一家だからこそ本当に必要な想いは全て音楽で表現して心通わせるものです。
だからこそ演奏会で音楽を通して繋がっていく形で再会をスマートに描いたのではないでしょうか。
オーガスト・ラッシュの意味
ここでもう一つ大事なのが原題のAugust Rush(オーガスト・ラッシュ)の意味です。
原題の意味は「立派なもの達が次々と沸いて出る」ということではないでしょうか。
Augustは元来ラテン語で「立派な」を意味し、Rushは「沸き起こるもの」を意味します。
つまりエヴァンも、そして両親もこの演奏会を通して立派な音楽家として次々と集まるという意味です。
その名前に相応しい集大成のシーンへと仕上がっていることがこのシーンのカタルシスとなります。
シンフォニーの意味
そしてもう一つ、シンフォニーは「交響曲」から派生してもう一つの意味があります。
それは様々な異なる要素が渾然一体となって不思議な効果を生み出しているということです。
これはエヴァンと両親の再会を巡る本作の物語展開そのものを指しているのではないでしょうか。
エヴァンと両親が再会出来たのは異なる彼らの要素が音の導きで引き合ったからです。
それぞれ演奏する音楽のジャンルも、そして再会するまでの生き様もまるで違いました。
でも音楽への才能と情熱という一点において全く同じレベルで通じ合っています。
だからこそラストシーンの演奏会でエヴァンと両親と聴衆と演奏者と色んな人達が出会えたのです。
奇跡のシンフォニーという邦題もまた見事なまでにものラストシーンの本質を表わしています。
すべての道は音楽に通ず
本作で描かれている物語のエッセンスは「すべての道は音楽に通ず」ではないでしょうか。
よくよく考えればエヴァン・ルイス・ライラの人生は音楽ありきで形成されてきました。
音楽の才能で惹かれ合って子供を生みながらも音楽故に一緒の道を引き裂かれています。
しかし、最後はまた音楽と向き合うことで救われ再会を果たすことが出来ました。
何とも数奇な運命ですが、しかし一つの道を究めることこそが最後に自分を救ってくれます。
音楽家の栄光と挫折、そしてそこからの這い上がりでこの家族は一つになれたのです。
作家志望の人へ
こうしてみると、実は本作は王道と見せかけた変化球の作品なのかもしれません。
何故ならば本作は最初に書いたように「普通ではない生き方」をした人達の物語だからです。
これは同時に作家志望の人へ向けた力強いメッセージではないでしょうか。
芸術家の道を志望する人達は大抵どこかで挫折を味わい現実を知り、その道を閉ざしてしまいます。
そこでもし道を閉ざさずに続けていれば、どこかでそれを生かす環境に出会えるかも知れません。
大事なのは途中にどんな艱難辛苦があっても受け入れ、諦めず振り返らずに進み続けることです。