「アントマン」のメインストーリーは、父親と娘の愛といってもいいでしょう。
娘に会うために犯罪を犯し、娘に愛されたいがためにヒーローになるという娘大好きのパパの成長物語でもあるのです。
娘への愛
スコットは世間的にはダメパパと呼ばれますが、娘への愛を貫く姿は圧巻です。どんなパパでも子供にとってはヒーローなのです。
そして娘への愛を貫いた結果、世界を救うヒーローになったアントマン。
更にサイドストーリー的に語られる、ハンク・ピムの娘ホープへの愛の形も不器用な父親の顔をのぞかせています。
街のヒーローから家族のヒーローへ
これまでのMUC作品では街や世界を救うヒーローが描かれてきました。
アントマンも最終的には世界を救っていますが、元を辿れば大切な家族を守るために戦うヒーローです。
その意味でもヒーローの定義を大きく変えた作品だといえるでしょう。
どんな立場の人間であろうと愛する者や守るべき者のために戦うことができれば、誰もがヒーローなはずです。
コミカルな作風に隠されたメッセージ
ヒーローは強くて大きいという先入観を持っていた人は多かったのではないでしょうか。
日本で1番有名なヒーローといっても過言ではないウルトラマンでさえ巨大化して敵を倒します。
しかし今回の作品ではアリ程の大きさのヒーローをコメディタッチで描きました。
しかもこのアントマンは自ら進んでヒーローになったわけではなく、その境遇と社会が複雑に絡んだ結果でした。
彼が体現するものは受刑者差別や離婚率の高さであり、それは今のアメリカを象徴しているといえます。
つまりこの作品は勧善懲悪というよりも社会風刺の側面が色濃く出ている異色のヒーロー映画なのです。
共感できるヒーロー
スコットのダメさ加減がむしろ人間らしく映り、観る者が共感しやすい設定だったのではないでしょうか。
自分の悪い面しか見えなくて自暴自棄になってしまう人は多いはずです。
スコットはそんな人達を表したようなヒーローでした。
社会の底辺から這い上がりヒーローになる姿は勇気と希望を与えてくれます。それが人気の一因です。
別の角度からこの人気の高さを分析すると、社会で希望を見出せない人が多いという現実が浮き上がってきます。
科学力の方向性を問う「アントマン」
コメディ色が強いアントマンなだけに、一見ダメな男が偶然ヒーローになった面白い物語のように映ります。
ですが実は科学力という深いテーマを秘めた映画でもあるのです。
進んだ化学が悪いのではなく、利用する人間の道徳心に問題があるという強いメッセージを投げかけています。