死体には蠅(虫)がたかる表現で、裏返された亀にも同様の描写が。その直後、胴体もひび割れます。
これらは亀が一度死んだことを示しているのでしょう。
そうして亀は人間に生まれ変わることができるという、寓意的な表現です。
同時に、この物語が生と死、生まれ変わりをテーマにしていることも浮かび上がってきます。
異なる存在が結びつくために
言葉を交わさない男女が、関係を深めていく過程も示唆に富んでいます。
女はしばらく距離を取っていましたが、男からシャツをもらった後、甲羅を海に流します。
人の手で作られたものを受け入れ、亀であることを完全に放棄したメタファーといえます。
そしてこれを見た男も、作りかけのいかだを海へ。男にも、島を脱出する意志が無くなったことの表れです。
両者はこうして共通点を持ち、夫婦になります。
人間と亀が結びつくというテーマをクリアするため、非常に丁寧に、距離を縮めていく様子が描かれているのです。
なぜウミガメはいかだを壊す?
では初め、なぜウミガメはいかだを壊したのでしょうか。
男への警告
それは警告だったのではないかと考えられます。
男と女のその後の関係を考えると、ウミガメに悪意があったとは考えにくいはず。
にも関わらず邪魔したということは、それが男にとって危険だったからでしょう。
危険な行動とは、島を離れ大海原へ出ていくこと。単純に、手作りのいかだで海を渡ることは危険ということかもしれません。
あるいは、島以外の場所(外の社会など)では男は生きていけないとも読み取れます。
これは無人島についての考察も影響する部分ですが、いずれにしても、ウミガメには男を守る意図があったと推測出来ます。
外に出ることを拒んだのは誰?
一方で、いかだを壊したのがウミガメではなかった可能性もあります。
いかだに衝撃があった際、男が何度水面下をのぞき込んでも、犯人の姿は見当たりませんでした。
三度目の脱出時、ウミガメは姿を現しますが、それがいかだに衝突する描写もありません。
とすると、男をここに招き入れた島が、あるいは男自身の無意識が外に出ることを拒んでいた、なども考えられます。
答えは明示されていません。男や無人島に、あなたは何を感じるか?という、製作側からの問いかけともいえるでしょう。
息子が出て行った理由とは
男が女と暮らすことを決めてから、穏やかな時間が流れ、息子も誕生しました。