キャリアウーマンの場合自ら有利に事を運ぶ為にキーパーソンの男性を官能的に誑かすこともままあります。
しかし、彼女はそんな卑怯な手は使わず、あくまでも論理と頭脳と戦略と人材のみで戦うのです。
単なる毒をもって毒を制すピカレスクヒーローに終わってない理由はここにあるのではないでしょうか。
孤独に生きる秘密主義者
一ついえることはエリザベスがどんな道を辿ろうとも孤独に生きる秘密主義者を貫くのではないでしょうか。
彼女はこのロビー活動をやるまでの生い立ちや家族も含んだ交友関係・趣味なども一切描かれていません。
その背中には常に渇いた孤独さとその孤独さ故の寂しさという側面が付きまとうのです。
恐らく人間としてはとても弱く、自分の本音を人に明かせない臆病者なのだと推測されます。
しかし超一流の戦う女神様であるならばそれはもう生まれもって抱えた宿命なのでしょう。
「敵にも味方にもしたくない人」という秘密主義者の運命は死ぬまで続いていくのです。
自分を犠牲にした理由
エリザベスは命がけともいえるこの戦いに勝ちましたが、それは自分の人生を犠牲にしてのことでした。
戦略のプロにしてはこの場面はスマートとはいえないのですが、この選択にどんな理由があったのでしょうか?
筋書き通り
まず一つ目にエリザベスは最初からこの自己犠牲を仕組んでいたということです。
いわゆる追い詰められて八方塞がりの最終手段ではなく、最初からこの展開へ向けて裏で仕掛けていました。
しかもそれは冒頭部分から既に示されていたのです。
ロビー活動は予見すること、敵の動きを予測して対抗策を考えること。勝つ者は敵の一歩先を読んで計画し、自分の手を見せるのは敵が切り札を使った後。敵の不意を突くこと、自分が突かれてはダメ。
引用:女神の見えざる手/配給会社:キノフィルムズ
そう、エリザベスは自分がやっている盗聴も含めた非合法な行為が暴露されることすら計算に入れています。
敵の切り札とは上院議員が暴いてくるであろう自分のスキャンダルで、自分の手はその上院議員のスキャンダル。
つまり用意している手札も条件も全てが同じ場合先に切った方が負けることを承知の上でこれを出したのです。
このゴールへ向けての筋書きが完璧だったからこそ、自己犠牲と引き換えに銃規制法を動かすことが出来ました。
仲間達を罪に巻き込みたくないから
二つ目はエリザベスが切り札として用意していたジェーンも含む仲間達を巻き込みたくないからです。
ここに彼女の良心が見える所で、切り札のジェーン以外にこの自己犠牲の作戦を明かしませんでした。
もし迂闊にこの自己犠牲の作戦をバラしてしまえば当然全ての計画が破綻してしまいます。
何せ一国を動かすほどの一世一代の大博打ですから下手なスパイ映画よりも危険度が高いのです。
だからこそエリザベスは見せしめにエズメの銃被害の過去をテレビで話したりもしていました。
つまり味方も容赦なく利用する代償として自己犠牲を最初から覚悟していた、正に鋼の精神力です。
真の敵はアメリカそのもの
そして何より、エリザベスが挑んでいた真の敵がアメリカそのものだったからです。
この国の制度は腐敗しています。良心に従って投票する政治は行われません得をするのは鼠です、旨い汁を吸い続けるため祖国を売り渡す鼠です。間違えないで下さい、この鼠たちがアメリカの民主主義を蝕む本当の寄生虫です
引用:女神の見えざる手/配給会社:キノフィルムズ
彼女は決して特定の誰かの為でもキャリアの為でもお金のためでもない、国のために動いていました。
上記した男女の壁すら超えた女神といえる鋼の精神力の源はこの「国のため」という動機にあったのです。
だからこそ報酬額は0ドルで彼女にとってどんなビジネスかとかどんなキャリアかとかは関係ありません。
それは正に国家権力を傘に好き放題しっぱなしのアメリカの政治家達とは正反対の相容れないスタンスでしょう。
そう、エリザベスは自己犠牲を選んでのこととはいえとんでもない方法で国家の転覆を成功させたのです。
これこそが正に「女神の見えざる手」の真実だったのではないでしょうか。