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映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は七月隆文の原作小説を2016年に映画化した作品です。

監督は三木孝浩、主演は福士蒼汰と小松菜奈で京都を舞台に20歳の二人の30日間を描いています。

美大に通う南山高寿と美容の専門学校に通う福寿愛美という奇妙な組み合わせの男女の物語です。

一見王道的な運命の恋を描いているようで、その裏に隠された愛美の秘密が受け手の心を揺さぶります。

今回は愛美が何度も見せる涙の理由をネタバレ込みで考察していきましょう。

また愛美の視点の理由や高寿にとっての最後の日の真意なども併せて読み解いていきます。

時が未来に進むとは限らない

続・時の迷路 明治、大正、昭和、そして未来へ

原作小説並びにその映画化の本作に描かれたテーマは「時が未来に進むとは限らない」ではないでしょうか。

はっきりいって本作で用いられている設定・キャラ・展開の要素自体は特別なものではありません。

男女の恋愛と時間SFという要素の組み合わせ自体は『時をかける少女』に代表される古典的な手法でした。

しかし本作がそれら諸作品と違っていたのは二人の男女の進む時間軸が完全に真逆の方向であるということです。

このことが物語全体の作風や二人の恋愛を非常に重苦しく見せている所以ではないでしょうか。

そんな運命の悪戯のようにしてすれ違う二人を通して表現されているものの本質に迫っていきます。

涙の理由

涙 下巻 新潮文庫 の 9-16

本作で度々象徴的に描かれているのは愛美の涙ぐむ姿で、小松菜奈の演技力の高さに驚かされます。

彼女は一体何に涙を流したのでしょうか?物語全体に暗い影を落とす涙の理由の本質を見ていきましょう。

二人の世界の時間軸が真逆

タテの時間軸:デイリースケジュールスタンプ:浸透印

上述したように、大枠として高寿と愛美の時間軸が真逆に進行していることが挙げられます。

それもかなり特殊なもので5年に一回30日間のみ出会えるという奇妙なルールでした。

即ち愛美が5歳の時には35歳の高寿と出会い、10歳の時に30歳の彼と出会う仕組みです。

時間軸が真逆であることで高寿も愛美もお互いが若返っているように見えます。

一見良いこと尽くめのようですが、しかしこれには大きな落とし穴がありました。

愛美は物語の冒頭の部分で既にそのことに気付いていたのです。

20歳という一瞬の重なり

二人の年齢は丁度20歳の時に一瞬の重なりを見せ、そこで初めて抱き合い男女の関係となります。

しかし、そこから先愛美が出会うことが出来るのは15歳より年下の時の恋人ではない高寿です。

一方それは高寿にとっても同じで、彼もまた15歳以降の恋人ではない愛美にしか会えません。

20歳という人生でもっとも若さの頂点として盛り上がるべき所で二人の恋は途切れてしまうのです。

その悲しく切ない別れを知っていたからこそ、20歳という一瞬の重なりに感動しつつも涙を流します。

分かりきっている結末

即ち愛美はもう既に高寿がどのような人生を辿るのか、答えを先に知ってしまっているのです。

高寿の「始まり」は愛美の「終わり」であり、また高寿の「未来」が愛美の「過去」となります。

ここで絶妙なのはそうした時空の流れと重なりを「すれ違い」という一言で分かりやすく表現したこと。

高寿と愛美は何度も「すれ違う」のですが、それは喧嘩をしたからという低俗な理由ではありません。

何をどう頑張っても変えることの出来ない時という運命の残酷さが二人をすれ違わせているからです。

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