とはいっても自由意志で行ったのではなく、司祭に相談した結果強く唆されてやったことです。
因果応報といえば因果応報ですが、夫も含む他者の家庭の幸福を壊してしまったことになります。
結果論とはいえこのような不幸を更に招くことになるとはジャンヌはこの時思わなかったでしょう。
その地獄の日々の始まりをこの手紙を燃やすシーンは予感させる伏線となっていました。
ポールを信じ切っていた理由
ジャンヌはこの後ポールの借金を背負うことになり、最終的には無一文になってしまいます。
普通であればここで親子の縁を切ってもおかしくないのに、何故か最後まで彼を信じるのです。
果たしてそこまでして彼女がポールを信じ切った理由は何だったのでしょうか?
願いは息子の幸せ
ジャンヌが何よりも望んでいたことは自分の幸せではなく息子の幸せではないでしょうか。
親とは自分が出来なかった夢や幸せを息子・娘に託すものだといわれます。
それは悪くいえばエゴイズムですが、ジャンヌの賢かった所はそこでポールに干渉をしなかったこと。
たとえ事業に失敗しようと金の無心をされようと、ジャンヌは何一つ嫌な顔をせず見守りました。
何しろ寄宿学校という場所がポールに合わないことまで見抜いて家に戻すほどです。
親として一番に成すべき使命というか願いは何かを考え、それに徹したのではないでしょか。
先人の二の舞にならないため
ジャンヌの人生は余りにも多くの苦難に満ちており、多くの人達の破滅を見てきました。
まず夫ジュリアンと伯爵夫人の浮気、手紙で知った母の浮気、エゴを押しつける司祭や父等々を見てきています。
いずれにおいても共通していたのは自分の尺度で物を考え自分のエゴを他者に押しつけた結果です。
そのような最低なエゴイスト達に振り回されてきたからこそ、ジャンヌはそうなるまいと誓ったのでしょう。
確かに事業に失敗して借金ばかりをこさえた息子を損切り・絶縁するだけならば簡単に出来ます。
しかしそれは結局息子思いなのではなくただの自己愛でしかありません。
そのような反面教師を見てきたからこそ、自分はそうなるまいと証明したかったのではないでしょうか。
ダメンズウォーカー
とはいえ、これらを引っ繰り返して悪くいえば、ジャンヌがダメンズウォーカーだったからといえます。
愛する人達に悉く裏切られ続けた彼女の人生は息子まで失ったらもう何も残らないと思えたのでしょう。
ジャンヌの優しさ・謙虚さは同時に優柔不断さ・押しの弱さにも繋がるダメンズウォーカーの典型です。
彼女の場合これすら自分でどうにかすることが出来ず、周囲に雁字搦めにされてしまった籠の中の鳥でした。
そこから逃れきれなかったことがこの惨状を生むことになってしまったのではないでしょうか。
孫を抱いたジャンヌの心情
よくいえば献身的、悪くいえばダメンズウォーカーな人生を歩んできたジャンヌは最後に孫を抱きます。
結婚して以来初めてといって良い程の笑みを見せるのですが、ここにどんな心情があったのでしょうか?
苦労が報われた瞬間
ここで初めてジャンヌの苦労が報われた瞬間が描かれたといえるのではないでしょうか。
ジャンヌが一番に望んでいたことはポールの幸せであり、どんな形であれ孫はその幸せの象徴です。