万佐子が一男に三下り半を下したのは、まどかの願いを奪おうとしたことを棚に上げ、まどかの存在の重さを忘れたからです。
まどかの願い
まどかも家に借金がありお金がないことを理解しています。そして、まどかは一男と暮せるのなら欲しいものも我慢できると思っていました。
福引の賞品で自転車を欲しそうに見ても、それよりもいつになったら3人で暮らせるのかを一男に訊ねたことで伝わります。
なぜ、まどかに自転車を贈ったのか?
一男が自転車を買ったのはまどかが欲しくて我慢していたからではなく、その自転車に乗るまどかの姿を思い浮かべたからではないでしょうか?
バレエの発表会で踊るまどかの姿と成長を二人で見たことで、バレエのレッスンを死守した万佐子の気持ちが一男にも理解できたからです。
一男は自転車に嬉しそうに乗るまどかの姿を万佐子と一緒に見ている景色を想像し、真の幸せとは何かに気がついたのでしょう。
原作「億男」について
原作は川村元気の小説「億男」(2014年発刊)です。翌年の2015年には本屋大賞の第10位に入賞をしました。
川村元気は上智大学卒業後に東宝に入社し、「電車男」「告白」「悪人」などの話題作を企画・プロデュースしています。
小説家としては2012年に「世界から猫が消えたなら」でデビューし、同作も映画化され佐藤健が主演をし「億男」の起用もそれが縁でした。
ふたりで100点コンビ
3億円を持って行方を晦ました九十九の狙いは、パパ活するアキラを使って億万長者といわれる起業仲間を訊ねさせることだったのでしょう。
大金を手にした人間の末路を見せ「お金の正体」を教えたのです。そして、最後に一男も九十九も自分にとっての幸せと友情を取り戻すのです。
「また夢になるといけねぇ…」
引用:億男/配給:東宝映画
九十九が一男との別れ際に言ったこの言葉は「芝浜」の勝五郎が、女房との幸せな暮らしが「夢」でないよう願う最後のセリフです。
つまり、一男との関係がお金が絡まない真の友情であったことが、九十九にとってまた「夢」にならないよう願う気持ちでした。
そして、お互い新たな道に歩みだすための「エール」ともいえるのではないでしょうか。
「億男」が伝えたかったこと
「億男」は“人間にとってお金とは何か?”と、お金だけで人は幸福になれるのかをテーマにした映画でした。
人が突然、大金を目の前にしたら何を思い考えるのか、誰にでもそのチャンスがあるのでその時のための心の準備としても観れます。
しかし、真意は人はお金に固執して「夢」を忘れてしまうと、いかに寂しい人生になってしまうかを教えてくれる作品なのです。