彼らのやっていることは決して遊び・娯楽ではなく真剣に命と向き合う行為である証拠でしょう。
金銭面は凄く大変ですが、真に価値あるものは相応の対価が必要となるのです。
赤子の健康
二つ目に懐妊した時に出てくるのが生まれてくる赤子の健康の問題です。
一回目は不幸なことに赤子の心臓が停止して流産する結果となります。
そのせいで一度は悲しみの涙に暮れましたが、これで終わりではありません。
二回目の懐妊でも赤子の頭に空洞があり無事に生まれるかどうかが問題となりました。
そう、懐妊が無事に出来ても赤子の健康がそれを許さないという残酷な運命があるのです。
だからこそそれを無事に乗り越えたラストシーンのカタルシスは最高の幸福感があります。
毒親・和夫の問題
そして三つ目が何かとヒキタ夫妻の不妊治療に口を出して腐してくる毒親・和夫の問題です。
彼は最後の最後までクニオに八つ当たりし続け、更に娘に怒鳴られると平手打ちを振るいます。
はっきりいって最低ですが、この嫌な男を演じた伊東四朗の存在感がそれに説得力を持たせました。
彼の役どころで近いのは朝ドラ『私の青空』の北山辰男が代表的ですが、あれに近い頑固親父です。
それでありながらちゃんと心配して応援する辺りも含めて実に伊東四朗ならではの役でした。
これらの試練を一つ一つ乗り越えたからこそ、健康な赤子が誕生したのではないでしょうか。
誤解されやすい男性不妊
この映画並びに原作エッセイを通して大きいのは誤解されやすい男性不妊を世間に認知させたことです。
女性不妊はよく問題となるものの、男性不妊となると世間の目や誤解・偏見が大きいものとなります。
これは世間に中々認知されない難病に苦しむ人々と似た問題ではないでしょうか。
本作では終始それをコミカルに描いてましたが、シリアスに描くと凄くきつい話です。
それを幾分緩和してみせつつ、しかし決して芯の部分はバカにすることなく真正面から描ききりました。
これにより男性不妊への世間の認知と誤解・偏見が少しずつ解けていくきっかけになることでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本作は内容を見ると分かりますが、題材自体はマイノリティーを描いたものです。
描き方次第では受け手に不快感を覚えさせる劇薬ともいえる題材に挑んでいます。
それをやや軽妙なタッチで、しかし決して綺麗事では済まされない不妊治療の生々しい現実を描きました。
ヒキタクニオさんの原作が素晴らしいのもありますが、何よりもスタッフ・キャストの一致団結故でしょう。
主演の二人の相性は勿論のこと、本作に関わる全ての方々の総合力で見事なドラマへと仕上げて見せました。
万人受けは難しいかもしれませんが、間違いなく見て損はない隠れた名作です。