逆にいうと、この幼少期のトラウマを片付けないと2人は前に進めないということでしょう。
母が父について話したがらない理由
しかし、そんな兄弟とは裏腹に母はなぜか父のことについては黙秘を貫いていました。
そのことが兄弟を余計に混乱させるのですが、何故母は父のことを秘匿したのでしょうか?
優しすぎた父
まず考えられる理由としては父が母に黙秘するように伝えていたのではないでしょうか。
それは母の次の発言から窺えます。
お父さんは優しすぎたのよ
引用:こはく/配給会社:SDP
母の心境としては本当は兄弟2人に話したくて仕方なかったのでしょう。
しかし、その辛さを自分1人で背負うと決めた父の優しさ・覚悟もまた無碍には出来ません。
だからこそ母だってその柔和な笑みの裏に凄く悲痛な想いを抱えていたのではないでしょうか。
演じる木内みどりさんの渾身の演技力も相俟って抜群の名シーンに仕上がっています。
晃子にあらぬ迷惑がかかる
2つ目の理由として、父との関係性が疑われる晃子にあらぬ迷惑がかかるからです。
後述する章一の証言の真相に向けてあらかじめ触れておくと、父と晃子はやましい関係ではありません。
ただ、かなり複雑で受け止めきれない事情であるだけに簡単に触れていい問題でもないのです。
そんなことをすれば兄弟はおろかギリギリの所で保たれている家族の絆に罅が入ってしまいます。
それだけは何が何でも避けなければならないと強く思っていたからこそ耐え忍んだのではないでしょうか。
これは並大抵の人が背負えない母ならではの強さだと推測されます。
人は孤独
そして最大の理由はこの兄弟2人に孤独に慣れて貰う為だったのではないでしょうか。
母は記憶の中で兄弟、特に父を強く恨む兄・章一にこう言い聞かせました。
人は孤独よ
引用:こはく/配給会社:SDP
本作のテーマや物語を全て包括する、実に深い含蓄に満ちた一言です。
そう、どんなに愛し合っていて血が繋がっていても家族も所詮赤の他人の集まりに過ぎません。
母も脳腫瘍で倒れ死んでいきますし、兄弟はそれぞれに自分の人生を持ち始めます。
だから繋がりを求めたとしても人は絶対に孤独から逃れることは出来ないのです。
どこまでも優しく、そして厳しい視点を持ち合わせた母だったことがここから窺えます。
章一の証言の真相
亮太の妻・友里恵が赤ん坊を出産した後、章一は父に関する新情報が入ったとの証言をします。
果たしてその真相はどうだったのでしょうか?
嘘だった
結論からいえば、章一の発言は真っ赤な嘘で亮太は騙された格好になりました。
喧嘩になるのですが、ここでの大橋彰の演技力は本作一番の見所です。
とても普段のアキラ100%とは思えない程の迫真の演技で、こう語ります。
俺にはいつも誰もいなかった。全部、父さんのせいだ
引用:こはく/配給会社:SDP
そう、ここで誰よりも家族で孤独だったのが兄・章一であることが分かります。