適正な環境を与えられ仲間が理解・応援してくれても、その才能に自負心を持たないと伸びません。
ムラドを高みへと押し上げ音楽を続けられた最大の理由は音楽を続ける中で培った自負心でしょう。
これらの要素があったから、どれだけ辛いことがあってもめげずに音楽を続けられたのです。
ラップが家族関係にもたらした影響
音楽の才能を磨いて突き抜けていったムラドですが、決して順風満帆の道のりではありません。
大きな障壁の1つが家族関係、特に暴力を振るいムラドを従わせようとする父でした。
ラップが果たしてどんな影響をもたらしたのかをここでは見ていきましょう。
価値観の相克
まず1つ目の影響はムラドと彼の父の価値観の相克という形で出ました。
ムラドの父は夢なんて追わずに現実を見て慎ましく常識人っぽく生きろなどと説得しようとします。
しかし、ムラドの言動・行動はそれに反する行為ばかりでちっとも従う気はありません。
彼にとって古い価値観を押しつけてくる父の態度が余りにも窮屈すぎたのです。
ここに旧世代と新世代の相容れない価値観の相克というテーマが挙げられるでしょう。
そしてそれはムラドの恋人サフィナの家庭にも共通していたことです。
芸術家のように生きる
2つ目の影響として、ムラドの家族は芸術家のように生きることも選択肢の1つだと知ります。
ここでの価値観の相克は同時に階級社会という社会的問題にも直結しているのです。
それが分かるのは序盤で父が仕事出来なくなった時ムラドに運転手代理を頼んだシーン。
ここでムラドは自分らしさを全く出せず組織の駒として動くことへの違和感を覚えました。
その違和感を体のサインとして受け取り音楽の才能という形で昇華して彼は上手く行っています。
即ち、芸術家のように組織から離れて自由に生きる価値を家族に提供したのではないでしょうか。
だからこそラストシーンのラップでの場面で家族揃って見に来てくれたのです。
サフィナの家族にも影響を与えた
3つ目にムラドの恋人サフィナの裕福な家系にも価値観の相克を与えることになりました。
彼女も医者の家系として生まれ、望まぬお見合いをさせられそうになったのです。
そんなサフィナが見合いを断り自由に生きることを志したのもムラドのラップからでした。
これは決してムラド自身が何かをしたわけではなく、結果的にそうなったに過ぎません。
しかし、このラップ活動があったからこそ彼も彼女も大きく変わることが出来たのです。
身分の違いを超えた恋人との絆
本作のもう1つの特徴として挙げられるのがムラドとサフィナの絆です。
階級社会の壁に苦しんできた2人はどのようにして恋愛関係に至ったのでしょうか?
ここでは2人の関係性に焦点を当てて考察していきましょう。
苦しみを抱えているのは同じ
まず1つ目に2人は苦しみ・孤独を抱えている点で共通していました。
ムラドは下層階級である苦しみがありサフィナには上流階級ならではの窮屈さがあったのです。