眠っていた前世の「妖怪や魔物を見る力」が、正和との出会い・鎌倉での生活によってよみがえったのでしょう。
前世からの警告
天頭鬼は、亜紀子が黄泉の国に来るように画策する、正和を消そうとするなど、異常ともいえる恋心の持ち主です。
また作中で、亜紀子を助けに来た正和に対し「何度も何度も夫婦になりおって」と話していました。
つまり、平安から現代にかけて、亜紀子の前世にあたる人物にも同様の手口で襲いかかっていたといえるでしょう。
そのため、天頭鬼の執念深さに危機感を持った前世の記憶が力として残り、亜紀子に警告していると考えられます。
鎌倉という土地柄
亜紀子に妖怪や魔物の姿が見えるもう1つの理由として考えられるのが、鎌倉の土地柄です。
警察署に心霊捜査課がある、死神が役所の職員のような立場であるなど、鎌倉では人間と魔物が共存していました。
魔物が街を歩くのも自然という鎌倉の土地柄を考えると、そもそも魔物が人間から隠れる必要がないと考えられます。
また、亜紀子が妖怪や魔物を見るタイミングというのが、きまって夜という点も考察の理由の1つです。
日本では、古くから夕方の6時ごろを、逢魔時(おうまがとき)ともいいます。
これは、辺りが暗くなってくることから、妖怪や幽霊などに出会いそうな時間という意味で呼ばれているのです。
また、黄泉の国へ行く電車が現れる「丑の刻」は、常世(=死後の世界)に通じる時刻とされています。
なかでも、丑の刻参りで有名な「丑三つ時」は、鬼門(=鬼や魔物が出入りする方角)と深い関係があるとされていました。
そのため、亜紀子に妖怪の姿が見えたのは、魔物と遭遇しやすい環境・時間帯であったからともいえるでしょう。
キンの正体とは?
様々な場面で夫婦をサポートしてくれるキンは、作家の「一色先生」こと、正和のお手伝いさんとして働く女性です。
正和の祖父の代から、一色家で働いているというキンですが、作中でも特に謎の多い人物といえます。
ここでは、一色夫婦の冒険をサポートするキンの正体について考察していきましょう。
幽霊
一色家で長年働いているキンですが、その正体は幽霊であると考えられます。
その理由にあたるのが、天頭鬼から無事逃げ切れた夫婦を黄泉の国で出迎えるシーンです。
黄泉の国に生きている人間が行くには、黄泉行きの電車に乗るか、魔界松茸を食べて幽体離脱する必要があります。
しかし作中には、キンが電車に乗っている、または魔界松茸を食べている描写はどこにもありません。
それでも、黄泉の国で2人を出迎えることができたのは、キンが既に死んでいるからであるといえるでしょう。
守り神
また、キンの正体は一色家を守る守り神という考察もできます。
キンが最初に登場したのは、亜紀子が一人で家にいた時でした。
その際、玄関の扉が開く音はもちろん、物音ひとつ立てておらず、亜紀子のそばに突然現れます。
これは、家の外から入ってきたのではなく、家の中で一色家の人々を守っていたからであるといえるでしょう。
また作中では「日露戦争で夫を無くした」「本人は85歳と言っている」など、キンの年齢の話も描かれていました。
『東宝』の公式ページには”130歳(?)”と書かれており、人間の最高寿命といわれている122歳を優に越えています。
他にも、貧乏神を触れることなくロープで拘束してみせるなど、人間とは思えない行動を見せていました。
つまりキンは一色家の守り神であり、正和と亜紀子を支えるべく、人間のお手伝いさんとして働いているといえるでしょう。
なぜ鎌倉が舞台なのか?
映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の舞台はタイトルにもあるように、神奈川県鎌倉市となっています。
作中では、妖怪や魔物がたくさん登場し、妖気が溜まりやすい場所として紹介されていました。
では、何故他でもない「鎌倉」という地域を舞台としたのでしょう。
その裏側には、鎌倉が持つ様々な伝説が関係していると考察できます。
かつて幕府が置かれた鎌倉は、様々な戦の舞台にもなったことから、妖怪や冥界に関する伝説が多く残っているのです。
なかでも「子育て閻魔」や「笑い閻魔」をはじめとした、閻魔大王に関する話は有名です。
閻魔大王は仏教における冥界の主であり、死者の生前の行動に基づき、裁きを下す役割を持つとされています。
映画では、死神・黄泉の国行き電車をはじめとした、死後の世界の様子が色濃く描かれています。
このように、作品における一大テーマともいえる、死後の世界との関わりが深い地域であるのが「鎌倉」なのです。
まとめ
『DESTINY 鎌倉ものがたり』は、様々なファンタジー要素を用いて、一色夫婦の純粋な愛と絆を描いた作品といえます。