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映画『ホテル・ムンバイ』は2008年のムンバイ同時多発テロを題材に制作された作品です。
インドのタージマハル・ホテルを舞台として展開される一連の事件は9.11以来の衝撃でしょう。
主演はデーヴ・パテール、助演にはかのアーミー・ハマーなど脇役も実に豪華キャストです。
テロリストの無慈悲な殺戮に立ち向かうアルジュンらホテルの従業員たちの姿に勇気づけられます。
果たして彼らは占拠されたホテルを取り戻し、事件を解決へ導くことは出来るのでしょうか?
本稿では従業員が戦士と呼ばれた所以をネタバレ込みで考察していきましょう。
また、ザーラの別れと再会が与えた影響や料理長の決意も併せて読み解きます。
テロの恐怖
本作全体の特徴は何といっても画面全体に漲る「テロの恐怖」です。
ハリウッドをはじめここまで緊迫感と臨場感溢れるテロ映画が未だかつてあったでしょうか?
アンソニー・マラス監督は本作を徹底した取材と演出へのこだわりをもって制作なさったそうです。
例えば撮影現場でいきなり大きな銃声を流したり、俳優達をホテルチームとテロリストで分けたりしています。
そういう徹底したリアルさへのこだわりが本作をテロ映画として1つの到達点へ至らしめた秘訣なのです。
デーヴ・パテールたち俳優の演技ももはや演技を超えたリアルさとなってより完成度を高めています。
きっとそれはテロの恐怖を風化させないという強い思いの現われだったのでしょう。
従業員が戦士と呼ばれた所以
本作の結末は従業員たちが多数の犠牲者を出しつつも見事にテロの脅威からホテルを守ってみせました。
そこから彼らは“ホテル・ムンバイの戦士”という称号を頂戴するに至ります。
果たしてこの称号はどこからどのようにして来たのか所以を考察していきましょう。
トリックスター・アルジュン
まず最初に挙げられるのは主人公アルジュンのトリックスターぶりで、ここが本作独自の面白さです。
トリックスターとは文字通り罠や悪戯といった奇策を用いて秩序や常識を破壊し価値観を新生する者を指します。
そしてアルジュンの活躍は正にこのトリックスターと呼ぶに相応しいものだったのです。
ホテルの監視カメラ室から作戦を指示したり、裏からサリーと客を救って逃したりと裏から策を仕掛けています。
このように、正攻法ではなくとも裏の方法でアルジュンは従業員たちや客を動かして難を逃れたのです。
ホテルの構造や客数を熟知していた
2つ目にこんなことが可能だったのはアルジュンたち従業員がホテルの構造や客数などを熟知していたからです。
武力では敵わなくとも、ホームであるから地の利を生かした戦いを展開出来るから簡単には負けません。
また、彼らの目的は決してテロリストと戦って勝つことにはなく、あくまでもインド軍がくるまでの時間稼ぎです。
無理をせずに自分たちに出来る最善をこなしていったという状況判断力とサバイバル能力に長けていました。
そして何より土壇場で取り乱すことなく行動出来るメンタル面の強さ…こういう所が彼らの戦士たる所以でしょう。
決してプロの軍人レベルに鍛えられていなくても、内面は十分に戦士のそれといえるのではないでしょうか。
自分にもある弱さを知れば本当のヒーロー
アルジュンたち従業員は自分たちの強さも弱さも全てを熟知している本当のヒーローではないでしょうか。
これは肉体的な強さ、武器の強大さといった力ばかりを追い求める過激派のテロリスト達と正反対です。