戦いにおいて逃げが恥だというのは勝てる見込みのある戦いの時のみ通用する理屈です。

明らかに戦力差があり負けると分かっている戦いを挑むのはただの無謀でしかありません。

勇気と無謀を履き違えず確実に出来ることからやるのが勝率を上げていきます、

判断ミスもある

とはいえ、そんな料理長の決断の全てが正しかったわけでもありません。

彼はザーラに脱出を許可したばかりに前述したような悲惨な事態を招くことになったのです。

運良くザーラがイスラム教徒でコーランを覚えてたからよかったものの結果論でしかありません。

夫のデヴィッドは死にましたし、ザーラも判断を間違えたら殺されていたはずです。

下手をすればザーラもテロリスト達に殺され、この戦いに負けていたかも知れません。

この辺りは運も大きく作用した部分なので、決意を相対化する意味でも良かった所です。

アルジュンへの信頼

そしてそんな料理長の決意をサポートしてくれたのが他ならぬアルジュンです。

最初は上司と部下だった2人が緊迫した状態の中で誰よりも強い絆を形成していきます。

特に警察に扮したテロリストを鵜呑みにしてしまう辺りにそれが窺えるでしょう。

あの時監視カメラを確認したアルジュンの助言がなければ料理長も死んでいたかも知れません。

また、宿泊客を逃す作業をスムーズに行えたのもアルジュンとの信頼関係があればこそです。

アルジュンをしっかり信頼し独断で行動しなかったことでまた彼も上司とし大きく成長しました。

料理長の決意は自身をより大きく成長させるきっかけとなってくれたのです。

テロリストも所詮は人間

テロリストの誕生: イスラム過激派テロの虚像と実像

こうして見ていくと、本作はテロリストに対して無実の一般人が立ち向かえる可能性を示しました。

テロリストというとどうしても怖いという潜在意識が先行しがちですが、意外とそうでもありません。

アルジュンたちが一致団結して然るべき対応策を練ることが出来れば十分に戦えるのです。

そしてそのテロリスト達だって所詮はイスラム教徒というバックボーンを背負った人間に過ぎません。

だからこそ同じイスラム教徒からのまさかの反撃に狼狽えて逃げてしまったのではないでしょうか。

本作はリアルなテロを描きながらも、しっかり大逆転のヒーロードラマへと昇華しています。

ポスト9.11

中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド (講談社選書メチエ)

いかがでしたでしょうか?

本作はいわゆる「ポスト9.11」を題材にした映画として1つの模範解答を示したのではないでしょうか。

9.11の頃は確かにテロリズムの脅威自体が新鮮で未曾有の危機として人々の目に映っていました。

しかし、そこから10年以上も時間が経てばテロの研究や対策だって進んで免疫も出来てきます。

本作はそれをホテル・ムンバイの戦士達の戦いに投影する形で示したのではないでしょうか。

まだまだ世界から宗教に端を発するテロリズムや内紛・戦争が去ることはありません。

しかし、その根本の原因が何であるかを分かっていれば過ちを正すことも可能なはずです。

そのことを身を以て描き示してくれた骨太な名作として映画史に残り続けるでしょう。