だからこそサムたちに共感するもの、反発するもの、それぞれが登場する二回目の逃避行へと繋がるのです。
嵐のあとにもたらされたもの
ではその後、二回目の逃避行で物語はどのような結末を迎えたでしょうか。
島には嵐が来るのと同時に、子供たちによる『ノアの箱舟』の演劇が行われています。モチーフ的にも意図的に重ねられていることは明白です。
『ノアの箱舟』では、全てが流された後に現れるのは新しい世界。
島全体を巻き込んだ嵐=逃避行が、島に大きな変化をもたらしたことを意味します。
サムとスージーも例外ではありません。命を懸けて助けに来たシャープ警部の呼びかけに顔を見合わせる二人。
何も言わず頷くスージーは「まあ、いいんじゃない?」と言っているかのようです。
協力してくれる人もいると知った彼らは、二人だけで生きていかなくてもいいと思えたはず。
自分たちだけで何とか大人になろうと必死だった一回目の逃避行からの大きな変化です。
嵐の後の語りも象徴的です。
だが農産物は 例年を上回る収穫高を記録
その品質も最高と言われた引用:ムーンライズ・キングダム/配給会社:フォーカス・フィーチャーズ、ファントム・フィルム
嵐の後の大豊作。二度目の逃避行を経て、二人が大人に向かって確かに成長していると教えてくれているのです。
ムーンライズ・キングダム 名前に込められた意味
最後に、入り江の名前「ムーンライズ・キングダム」について。
辿り着いた時点で命名されていたのに、明かされるのはラストのサムの絵によってです。このタイムラグはなぜあったのでしょうか。
名前の意味は直訳すれば「月が昇る王国」。太陽が昇る世界=現実と考えれば、こちらは幻想や夢の世界といえるでしょう。
事実、嵐によって入り江は失われて既にありません。それと同じで、子供時代の夢も、時と共に失われてしまうもの。
それでもこの夢の王国は、無垢な子供だった時代の象徴として彼らを支え続けるでしょう。
そして同時に、『ノアの箱舟』との関連も思わせます。嵐の後にできるのが、生き残ったものたちによる新しい世界=王国。
この王国の名前は、嵐の後でなければ明かせなかったものなのです。
「ムーンライズ・キングダム」。
それは、真っすぐな少年少女が巻き起こした恋の大騒動によって、人々が大きく変化したことを示す大切な名前でもあるのです。