彼女の精神は安定していき、レイノルズの嫌がることを意図的にやるようになるのです。
ある日アルマは毒キノコを食べさせますが、その目的をここでは読み解きましょう。
嫌よ嫌よも好きのうち
まず1つ目に「嫌よ嫌よも好きのうち」ということが挙げられます。
もうこの段階になるとレイノルズはアルマに屈服してしまっているのです。
だから嫌なことをされたとしても断り跳ね返すだけの力がありません。
毒キノコとは文字通りレイノルズの心をどんどん蝕んでいく劇薬です。
しかも彼が嫌いなバターまで入れるのですからもはやいじめのレベルではないでしょうか。
これさえも作戦の内で彼女は最初から全てを作戦として計画立てていました。
影でレイノルズの本音を聞いてしまった
2つ目にレイノルズが仕事仲間のシリルに結婚生活への不満を漏らしていたことでした。
大人しくなったと思いきやレイノルズは結婚生活が人生の墓場だと正確に看破しています。
幾ら安定したアルマといえどそのような陰口を聞かされてはたまったものではありません。
だからこそもう1度懲らしめてやるという特大のお仕置きだったのではないでしょうか。
そしてこれが同時にラストの支配を意味する膝枕へと繋がっていくのです。
独占欲と依存
ここで描かれているのはアルマのレイノルズに対する独占欲でしょう。
自分だけがレイノルズを助けられるという言葉に全てが込められています。
そう、これはもはや”愛”でもなければ”信頼”でもなく、独占欲と依存です。
例えるならDV彼氏に塩漬け状態にされて抜けられない女性のような危険な状態ではないでしょうか。
それを貴族の結婚生活の中で上品に描くだけでも印象がまるで違うのだと思い知らされます。
強そうで弱い男と弱そうで強かな女
こうして考察を重ねていくと、本作は2人の歪んだ恋愛を通して男女の本質を描き出しています。
それは強そうで弱い男と弱そうで強かな女という生物学的な本質です。
レイノルズという男は表面上主導権を握ろうと支配的な振る舞いをしますが、内面は孤独で弱い人でした。
だからこそ母性への執着が非常に強く、それを持ち合わせたアルマに支配を許してしまうのです。
一方アルマは弱そうに見えてかなり強かで、レイノルズを支配することにブレがありません。
だからどれだけ悪口や陰口をいわれても鋼のメンタルで毒を用いて支配するという奇策が出来るのです。
2人の関係は男よりも女の方が本質的に強い生き物だと感じさせるのではないでしょうか。
権威主義の終焉
いかがでしたでしょうか?
本作は男女の歪んだ禁断の愛の裏側に”権威主義の衰退と終焉“というテーマも隠されています。
冒頭でも書いたように、レイノルズの凋落とルイスの役者人生の終焉が正にそれです。
1人の圧倒的な支配者が築き上げる時代がもう終わりを告げ、個人が独立して動く時代が新しく来る。
レイノルズが落ちていきアルマが台頭していく物語にそれが示されています。
そういう意味でも色んな「時代の変わり目」を強く意識させる傑作ではないでしょうか。