大学進学以外にも父の無職を八つ当たりしたり、経済的事情を押しつけたりしています。
ここから察するに母の取っている言動・行動は毒親の典型ではないでしょうか。
自尊心を傷つけるだけじゃ飽き足らず、恩着せがましく感謝の心を押しつけてくるのです。
しかし、親が子供の学費を工面するのは当然のことで、それを子供に押しつけてはいけません。
また、感謝の心とは子供が親に示すものであって親が子供に上から強制するものはないのです。
高校時代のレディ・バードが自己肯定感が低いのも母の毒親じみた言動・行動の影響でしょう。
だから安易に母が正しくて娘が間違っているなどと断言することは出来ません。
数少ない理解者である父
そんな中で救いだったのは娘を理解し無言で援助してくれた父ラリーではないでしょうか。
無職でも補欠合格となったニューヨークの大学に奨学金を取得して進ませようと応援します。
しかも上記したように母がゴミ箱に捨てた手紙を引っ越しの荷物の中へ入れたのも父でした。
そう、父だけがレディ・バードが奥底で抱える悩みの本質を理解し、肯定していたのです。
娘の反発は同時に大人になろうとする心構えの表れだとしっかり理解しています。
そうした父の影ながらの優しさもまたレディ・バードに大きく影響していたのでしょう。
分かったふりをするな
本作が全体を通して伝えたいメッセージは「分かったふりをするな」ではないでしょうか。
レディ・バードことクリスティンの悩みは確かに周囲にはおかしく見えます。
しかし、彼女はふざけているのではなく自分の人生に真剣だからこそ悩んだり傷ついたりするのです。
そしてそういう若い頃にぶつかって出来た傷が大人になると優しさへ変わっていきます。
そんなレディ・バードの行動・言動を誰が愚かだと断じることが出来るでしょうか?
変に分かったふりをして真面目ぶった生き方をするよりも遥かに自分らしく輝いています。
そういう人に大人が出来ることは何なのかを考えさせる映画かも知れません。
親子関係に絶対の正解はない
本作を家族ものとして見ると、そのドラマ自体は決して劇的という程のものではありません。
寧ろ現実にはクリスティンよりも酷い家庭環境など現実に幾らでもあるでしょう。
しかし、どんな家庭環境にしても親子関係に絶対の正解はないのです。
父も母も娘も完璧な人間ではなく、誰が正しく誰が間違いということはありません。
親だって所詮は子供よりも先に生まれて人生経験が長いだけなのですから。
子供と向き合う時に自身の価値観や意見を正しさとして押しつけてはいけないのです。
本作は何よりもそこを大事にしたからこそ傑作たり得たのではないでしょうか。