出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B085J77YFV/?tag=cinema-notes-22
映画『帰れない二人』は中国・フランスという異色の組み合わせによる2018年公開の作品です。
監督はジャ・ジャンクー、主演をチャオ・タオとリャオ・ファンが務めています。
2001年以降の激変期と呼ばれる現代中国を舞台にビンとチャオの壮大な物語が展開されるのです。
社会の裏で様々な裏切り・不義理を経験しながら変化する2人の運命は多くの人の共感を呼びました。
本稿ではラストの結末に映るチャオの表情の真意をネタバレ込みでじっくり考察していきましょう。
またUFOの出現が与えた作品への影響と2人のその後も併せて見ていきます。
男女の関係で綴られる現代中国史
本作の全体的な特徴は男女の関係で綴られる現代中国史にあります。
ビンとチャオという2人の恋愛関係はそれ自体特筆するほどの劇的な関係性ではありません。
手法としては成瀬巳喜男監督の『浮雲』に代表される現実の大人の恋愛を描いたものだからです。
しかし2人の関係性を通して中国の社会が激しく移り変わる様は見所があります。
ビンとチャオはそんな時代の荒波に揉まれていく中で対照的な運命を辿ることになるのです。
果たしてその物語が何を受け手に伝えてくれるのかをじっくり考察していきましょう。
結末に映るチャオの表情の真意
ビンとチャオは裏社会に生きる恋人同士でありながら何度も別れと再会を経験します。
ラストでビンはチャオに携帯電話で別れを告げ、チャオは立ち尽くすしかありませんでした。
この結末で映るチャオの表情の真意を細かく掘り下げていきましょう。
無常
最初にこの表情から読み取れるのは“無常”ではないでしょうか。
チャオがここで立ち尽くしたことにその無常さがしっかりと表現されています。
逮捕されたり男を騙したりしながらもチャオはしっかり義理と筋は通す女性です。
本気で好きになった男はどんなに離れていても自ら愛に行く行動力があります。
そんな彼女がラストで何も出来ず立ち尽くすしかなかったのです。
ここでチャオは世の無常さを初めて去って行くビンに感じ取ったのではないでしょうか。
諦観
2つ目にそのうつろな表情に表現されているのは“諦観”ではないでしょうか。
世の無常さを感じると共にチャオはビンのことを諦めて観ることしか出来ません。
物語の序盤ではあれだけ一緒にいることを夢見ていたにも関わらずです。
どんなに仲の良い人間関係だって時や環境が変化すれば気持ちも変化して当然でしょう。
ここでやっとチャオはビンのことを諦める段階に至ったのかも知れません。
名誉を得た代償
ビンとの別れはチャオが名誉を得た代償として表現されているのでしょう。
実際、脳内出血を起こして車椅子生活となったビンとこんなやり取りをしています。
ビン「なぜ俺を救った?」
チャオ「あなたには何の感情もないわ。渡世には義理はつきもの、渡世を捨てたあなたにはわからないでしょうね」引用:帰れない二人/配給会社:ビターズ・エンド
この台詞、一見チャオの強さと冷たさを示しているようですがそうではありません。
確かにチャオは芯が強く、どんな荒波に揉まれても義理と筋はしっかり通して大成しました。