少なくともここまではっきり無常な別れを描いたのですから、再会の可能性はありません。

もし2人が再会してハッピーエンドとなればここまで紡いだ物語の意味がなくなります。

仮に再会することがあってもその時は完全な赤の他人であり、愛はないでしょう。

決して結ばれることがないからこそこの2人の関係性は重たく尊いのです。

仕事人として生きるチャオ

まずチャオは仕事人として今後も生き続けていくのではないでしょうか。

たとえ1人であってもビンを当てにせず自活して生計を立てることが出来るのがチャオです。

今後も男を騙したりお金を奪ったりと腹の中は真っ黒なままでしょう。

しかし、義理と筋はしっかり通す女性ですから将来に困ることはありません。

きっと女主人としてずっと孤独な道を進んでいくことが窺えます。

再生と復帰を果たすビン

そして注目すべきはやはりビンで、彼もまた再生と復帰を果たすのではないでしょうか。

彼は仲間にも恋人にも裏切られ、チャオとは対照的に覚悟の定まっていない人間でした。

前半では羽振りの良さを見せていながら、どこか危うく見えたのは内面の不安定さからです。

だからビンは強がっていながらもチャオをはじめ支えてくれる人がいないと生きていけません。

それのことを恥じて、改めて再起を誓ったからこそラストでチャオと別れたのでしょう。

今度こそ本当の意味で強い男になるため、自分の人生を生きるために。

男女が葛藤する社会的状況

オトコの気持ち オンナの事情[公開ミーティングシリーズ] (季刊[ビィ]増刊号No.14)

さて、本作を考察していく上で1つ疑問だったのは何故任侠の世界だったのかということです。

これは恐らく男女が葛藤する社会的状況が意外と任侠の世界位しかないからでしょう。

戦争が起きない現代中国において、男女の葛藤がドラマとして映える状況は中々ありません。

本作はその辺りを非常に賢く設定しつつ、でも感情ベースではなく論理ベースで構築しています。

そういう世界だからこそ石炭価格の暴落をはじめ中国の裏社会という設定が映えたのです。

非常にしっかり計算され尽くしたドラマの構成ではないでしょうか。

時代の変化に残されない為に

変化の時代、変わる力―続・経営思考の「補助線」

いかがでしたでしょうか?

本作が訴えたかったのは時代の変化に取り残されない為にどうするべきか?です。

これは男女の関係ではなくより内面に踏み込んだ「個」のテーマではないでしょうか。

ビンとチャオの生き方は時代の荒波に翻弄されながらも辿った運命は対照的でした。

ビンは一見強そうに見せかけて内面が脆く、時代の荒波に淘汰され置いていかれた人です。

一方チャオは服役までしながらも常に芯を強くもって行動をしていました。

恋人同士だからではなく、自立した個人となって初めて対等でいられるのです。

恋愛を超え、自分の人生は自分で責任を取るしかないという本質を捉えた逸品でしょう。

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