これはもう単なる伝記映画という括りを超えた息子から父へ捧げた感謝の手紙ではないでしょうか。
そしてスペイン音楽を知る人にも知らない人にもパコの魅力を教えてくれる伝説となったのです。
カマロンの歌に受けた衝撃
パコはその孤独な音楽人生において影響を受けた人物が節目節目で現われます。
その1人が天才歌手カマロンであり、ここでパコはかつてない衝撃を受けました。
果たしてそれはどのような衝撃だったのでしょうか?
大切なのは技術だけではない
まずパコが感じ取ったのはカマロンの歌が決して技術だけではないという衝撃です。
それまでの彼はどこか師であるニーニョ・リカルドの教えを忠実に守っていました。
テンポを大切にし、奔放さもありつつ基本に忠実に弾くことをモットーにしていたのです。
しかし、カマロンの歌った歌は技術では計り知れない情熱や魂の籠もったものでした。
即ち本物の芸術家・音楽家とは決してスキルにはないことをここで知るに至ります。
何よりも「想い」こそが音楽においては大切だとパコは痛感したのではないでしょうか。
即興フラメンコを確立する
2つ目にここからパコの伝家の宝刀「即興フラメンコ」を確立していくようになります。
きっかけはテレビやラジオ等々メディアへの露出であり、彼はここで自身の認知度を高めたのです。
しかもそれだけではなく、フラメンコギターの伝統・セオリー自体をも打ち壊しました。
ジャズやロック、クラシックに至るまで様々な音楽をハイブリッドに吸収していったのです。
伝統主義の人たちからは非難囂々となりましたが、この革命がパコを真の天才ギタリストへ押し上げました。
スペイン音楽の解体と再構築
様々な音楽を取り入れ独自のスタイルへ昇華させたパコの音楽はスペイン音楽の解体と再構築に繋がりました。
あれだけ非難囂々だった保守派の人たちも徐々に彼の音楽を受け入れていくようになります。
それは正に映画史においてゴダールらカイエ派の映画が新しい映画のスタイルとして定着したのと同じです。
音楽にしろ映画にしろ、どこかの時点で破壊による再生は発展の為に必ず起こります。
逆にいうと、そのような破壊による再生が起こらない分野は衰退していくものです。
パコはフラメンコギター史におけるジャン・リュック・ゴダールだったのではないでしょうか。
音楽への探究心が尽きない理由
そんなフラメンコギターの革命児パコですが、彼は晩年に引退するまでずっと音楽を探究し続けました。
幾ら天才だったとはいえ、彼がそこまで音楽への情熱を燃やし続けられた理由は何でしょうか?
物語の流れから読み解いていきます。
完璧主義
まず1つ目の特徴として挙げられるのが狂気とさえいえる程の完璧主義であったことです。
革命児としてその名を恣にしているのは徹底した努力の天才であったからでした。