出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B0874TX3QW/?tag=cinema-notes-22

映画『Fukushima 50』は門田隆将の原作ノンフィクションを土台とした社会派ドラマ映画です。

東日本大震災後の福島第一原発事故後の発電所で奮闘する50名の作業員たちの奮闘を描いています。

監督は若松節朗、主演を佐藤浩市と渡辺謙ら実力派の俳優達は務めるなど凄く充実した戦力です。

東電の対応と並び、3.11が残した爪痕が如何に大きなものかが分かる作りでありましょう。

報道だけでは伝わらない福島並びに日本全国への惨状がリアルなものとして描かれています。

それだけに評価は賛否両論ですが、絶対に震災を風化させてはいけないと見せつけてくれるのです。

本稿ではラストで吉田が手紙を当てた伊崎への思いをネタバレ込みで考察していきましょう。

また、遥香の励ましが与えた影響や米軍援助の真意も併せて読み解いていきます。

福島第一原子力発電所事故

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発 (角川文庫)

東日本大震災の余波として起こった福島第一原子力発電所事故は未解決の部分が多く残った事故です。

戦後に起こった事故としてはロシアのチェルノブイリに次ぐ最悪のレベルであるといわれています。

原作の『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』でも非常に生々しく実態が描かれているのです。

その映画としての再現である本作ではいわゆる「世間の反応」を最小限にして作られています。

おそらくは政治目的のプロパガンダになってしまうことを避ける為でしょう。

余計な要素をそぎ落し50名の作業員のドラマに焦点を当てているので、しっかりまとまっています。

歴史の表舞台に出ることのない50名の現場での奮闘は何を受け手に伝えてくれるのでしょうか?

手紙を当てた伊崎への思い

手紙 (文春文庫)

本作のラストは食道がんで他界した吉田昌郎から伊崎への手紙が綴られていました。

そこには自然を舐めていたことや格納容器が爆発しなかったことなどに言及されています。

果たして吉田は伊崎にどのような思いを込めてこの手紙を宛てたのでしょうか?

理不尽への憤り

理不尽に逆らえ。 真の自由を手に入れる生き方 (ポプラ新書)

まず渡辺謙演じる吉田の中にあったのは周囲の理不尽への憤りではないでしょうか。

世間は自分たちを英雄だと称しますが、それは実態を知らないからいえることなのです。

また、その福島原発の報道も世間では都合のいいように解釈され、間違った伝わり方をします。

そうした民意に対する怖さと同時に憤りが何よりも強く残ったのでしょう。

吉田の中でその感情を共有出来、正確に理解出来るのは同僚の伊崎だけでした。

そのことをまずは伊崎に伝えたかったことがこの手紙から窺えます。

無常感

無常感の文学 (1959年) (アテネ新書)

2つ目に「自然を舐めていた」という言葉からも分かるように無常感です。

今回の事故は誰かや何かが原因で起こったわけではなく、大災害の余波でした。

吉田のみならず、全員がこの原発事故に対して無意識に感じていたことでしょう。

人間にはどうすることもできないレベルの災害を経験したことはずっと消えない傷となります。

その無念さを改めて伊崎と共有したいと手紙にぶつけたのではないでしょうか。

風化させない

そして3つ目に作品全体のメッセージとして「風化させない」ということでしょう。

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