しかし橋なしでは本来対岸へ渡れません。つまり『架け橋』という言葉があるように、橋は本来交われない場所への交流を可能にするものです。
スタートアップ・ガールズでは橋のシーンを実に効果的に使い、シーンごとに少しずつ光と希との距離が埋まっていく様子がみてとれます。
光が希を罵倒した理由
さて全く考え方も性質も違う主人公の2人が、だんだんと理解し合う中で印象的だったのが光の罵倒シーンです。
いったいなぜ光は電話口であんなにも希を罵倒したのでしょう?
『裏切り』に対する光の拒絶
ここで思い出したいのが、『裏切り』に対する光の異常なほどの拒否反応です。
劇中では何度も『裏切られるのは嫌だ』と、繰り返し裏切りという言葉を使います。
ここで伏線として『光が過去に裏切られた経験』が隠されていることが分かります。
しかしその裏切りが何だったのかは、劇中で一切描かれていません。
そこで想像するのは親・友人・恋人のいずれかでしょう。ヒントになるのは橋の上で光とミズキが話すシーンです。
『裏切ったりしないかな?だって私って私じゃん』
引用:スタートアップ・ガールズ/配給会社:プレシディオ
という光の言葉。おそらく衝動的で破天荒な光は、どんな素晴らしいアイデアを出しても今まで周囲に理解されることが少なかったのでしょう。
劇中で最初に光が立ち上げる小児科医と母親をオンラインで結ぶ診療サービスでも、発案者の光は事業から外されています。
天才肌の光ですが、理解されないばかりに悔しい思いをしたことが過去に何度もあったのでしょう。
初めて不安を口にする光からは、天才ゆえに孤独に陥る不安が感じられます。
光の罵倒と怖れ
罵倒はとても強い感情の表われです。怒ったり叫んだりすることとは次元が違う、とても強い感情の爆発。
ではどんな時に人は『罵倒』するのでしょうか?通常人が罵倒されるときは、なにかとんでもない失敗をおかしたときです。
ただ罵倒するという行為には、罵倒する側に怒りではなく大きな不安が隠れています。
『ぜんっぜん連絡来ないけど何してるわけ?』
引用:スタートアップ・ガールズ/配給会社:プレシディオ
そして光が希を罵倒する電話での最初の言葉では、光の声が少し震えています。
このシーンの前にはミズキに不安を吐露する場面があるので、ここでまた自分から人が去っていくという恐怖を感じているのでしょう。
希を信頼し始めた反動
ただ罵倒シーンとはいえ、ここでは光の心情が大きく傾き始めたことを示しています。
裏切られたくないと強く願うということは、相手を信頼している証拠です。
今まで光は人をそんなに信頼してきませんでした。なぜなら光は裏切られることが怖いからです。
そして光は天才さゆえに人から理解されることが少なかったのです。
しかしそんな光が、真面目で堅実で自分とは全く正反対の希を信頼し始める…。
これは光にとって大きな一歩であり、恐ろしい一歩でもあったのでしょう。その反動が一気に爆発し、希を罵倒してしまったのです。