それが「孤独」であり、槙島の死後狡噛は皮肉にも1人で戦う人生を選んでいるのです。

決して意図したわけではないものの、結果として狡噛は槙島の後を追う生き方となっています。

少数派の生き方

なぜ少数派に政治が動かされるのか? 多数決民主主義の幻想 (ディスカヴァー携書)

2つ目にそんな狡噛と槙島はお互いにしか分かり得ない孤独を抱えて生きていました。

槙島は免罪体質でシビュラシステムには全くそぐわない外側の人間だったのです。

また狡噛も刑事として働く中で法では人を守れないことの限界に気付き外側の人間になりました。

唯一槙島の心理状態を分析し槙島と対等の視点や思考で会話が出来たのが狡噛となります。

だからこそ死しても尚幻影のように姿を表わし狡噛の生き様の本質を問うことをいうのでしょう。

真の天才は世間から距離を置く

真のエリートを目指して―努力に勝る天才なし (OR books)

そして3つ目に狡噛や槙島のような真の天才は世間から距離を置くことを意味しているのでしょう。

槙島が狡噛の前に現われるのはいずれもが狡噛の周囲に誰も居ない2人きりの場面です。

それがアクションの派手さなどよりも遥かに目立つように演出されています。

2人は国家が作るシステムの愚かしさに気付いている真の天才であり、正に慧眼です。

しかし、民衆に溶け込むような生き方も国の体制を変える側にも回れない苦しみがあります。

狡噛はその苦しみと死ぬまで戦い続けることになるのを示しているのではないでしょうか。

国家崩壊の先にあるもの

国家の崩壊 (角川文庫)

本作が全体のテーマとして示したのは冒頭でも書いたように国家が個人を守れなくなる時代でした。

そして見事にシビュラシステムが抱える致命的欠陥を体制側への反逆を通して示したのです。

これは現実世界も同じことで、結局個人情報のデータ化・数値化による管理でしか守れていません。

しかしそのシステムの致命的欠陥を批判し辞めたからといって問題は解決するわけではないのです。

管理・統制なき社会は自由と欲望を履き違えたやりたい放題の犯罪社会を生み出すでしょう。

そんな社会が訪れたら果たして誰が人々の安全や命を守ることが出来るのでしょうか?

本作はそれを考える時代がいずれ到来することを示しています。

まとめ

テロリズムと現代の安全保障 テロ対策と民主主義

いかがでしたでしょうか?

本作は狡噛と槙島、そして常守の3者を通して現実世界の国家の問題点を見事に炙り出しました。

シビュラシステムというデータ化・数値化による管理システムが根本的に抱える問題は何か?

その問題点が社会の歪みに繋がり、テロリズムという形で出ていることを明らかにしています。

つまり現代社会がどれだけ足場の不安定な砂上の楼閣に生きているかを示しているのです。

それに気づけるのはごく1部の天才のみで、しかしそういう人達は世間から距離を取るでしょう。

管理される側でいるのか管理する側に回るか、それともそのどちらにも与さない生き方を選ぶのか。

非常に根深い社会の問題に見事迫ってみせた名作です。

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