ナンシーはサメに左足を噛まれ、負傷しました。負傷した傷が深く、常に血が流れだしています。
さらに、時折海水に入っては、足から出血するので、サメがそれに反応します。
サメは血の匂いに非常に敏感です。ナンシーの足から出た血は、サメを刺激し続け、捕食モードにし続けました。
つまりナンシーに対するしつこさを見せたのは、怪我による血が関係しており、サメは「獲物が弱っている」と思い居座り続けたのです。
サメという存在
執拗に追い回すサメではなく、自然界にいるサメという視点で考えると、違った角度からサメの存在が見えてきます。
つまりサメの視点から見ると、ビーチに居座り続ける理由が見えてくるのです。
人間への恨み
基本的にサメが出る映画は、サメ=悪のような描かれ方をしており、本作もそのように見えます。
しかし他のサメ系映画とは違って、『ロスト・バケーション』に出てくるサメの口元には、大きな針が刺さっていました。
これはつまり、以前人間の手によって痛い思いをしたことがあるということです。
釣ろうとしたのか、それとも駆除されようとしたのかは分かりませんが、いずれにしろサメは人間を憎んでいるはず。
だからこそクジラという食糧があるにもかかわらず、人間を優先的に襲っていたのかもしれません。
人に対する恨みが、サメのしつこさを生んでいたのです。
入り江の主
サメは海の食物連鎖の中でも、トップに位置する生物と言っても過言ではないでしょう。サメが捕食されることは、ほとんどありません。
秘密のビーチは、人間が都合よくとらえているだけ。一方、サメにとっては自分の住処なのです。
しかも先述したように、定期的に食糧が捕れるうえ、入江ということからも比較的潮は穏やかに動く場所。
サメにとって、これほど都合の良い住処はありません。サメが執拗に追いかけるという以前に、ビーチはサメの住む家なのです。
極限状態での「お友達」
ナンシーと同じく、サメに負傷させられ、岩場に逃げ込んだカモメがいました。
本当は一人じゃないわ。カモメが友達になってくれた。
引用:ロスト・バケーション/配給会社:コロンビア映画
ナンシーは「友達」と呼ぶカモメを治療します。生きるか死ぬかの極限状態の中、なぜカモメを治療しようとしたのでしょうか。
絶望の裏
足の負傷、助けはない、食糧・水もない、自分を狙う捕食者。本作の主人公は、極限状態の中にいました。
その絶望的状況の中、必死に生きようともがいているのがナンシーとカモメです。
ナンシーがカモメを治療したとき、ちょうど満潮が近づき岩場がなくなろうとしていたときでした。
つまり、ナンシーの命は風前の灯。一方、海ではなく、空を飛ぶカモメはその対比的存在として描かれます。
そのカモメを治療することで、絶望的な状況にいても救われる命はある。そう思ってナンシーは、カモメの治療をしたのです。
またナンシーは絶望したのかというと、そうではありません。今からブイに向かって泳ぐという「全力の闘い」に挑みます。
その意思は、ナンシーが医学部へ復帰し、卒業するラストシーンにつながるのです。
医者を目指した者として
ナンシーは医学生でしたが、母親の死に直面して、その道を断念しようとしていました。
そんなときに現れたのが、怪我をして絶望的な状況にあるカモメです。