出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B08227RXHP/?tag=cinema-notes-22
映画『火口のふたり』は白石一文の原作小説を荒井晴彦監督・脚本によって実写化した作品です。
キャストは何と柄本佑と瀧内公美のたった2人であり、この2人の演技合戦で画面を成立させました。
東日本大震災を原体験として2人の男女が「生きる」とは何かを真剣に問う物語です。
若干の設定変更として舞台を福岡県から秋田県に移していますが、概ね話の流れは原作に沿っています。
震災をモチーフにした衝撃作という触れ込みであり、評価も含めて見る人はかなり選ぶ作品でしょう。
しかし、生々しく画面上に生きられている永原賢治と佐藤直子の2人の演技は現実だとすら思えます。
本稿では直子が結婚する理由をネタバレ込みでじっくり考察していきましょう。
また、賢治と尚子が結婚前に体を重ねた理由や2人にとっての富士山噴火の意味も併せて読み解きます。
映画とは何か?
本作全体のテーマは「映画とは何か?」という実に哲学的で深い問いではないでしょうか。
白石氏の原作小説が素晴らしいのは勿論ですが、それを再構築する荒井監督の力量が何より凄いのです。
エキストラを除けば、本作は殆ど賢治と直子の絡みだけで全てが成立しています。
しかも尺の3分の1を濡れ場としてこだわって撮られており、ロマンポルノ映画の懐かしさもあるでしょう。
本作は賢治と直子の生き方を通して生き方と同時に「映画とは何か?」を問う物語です。
かつて、映画史を塗り替えたゴダール監督は「男と女と一台の車があれば映画が撮れる」と宣言しました。
本作は正にそれを体現した作品であり、2人の「生」が何を伝えてくれるかを読み解きましょう。
直子が結婚する理由
本作は賢治と直子が再会し、結婚するまでの5日間の過程を丹念に描いています。
直子は何故自衛官と結婚することを決意したのか、その理由を考えてみましょう。
子供を産みたい
1番の理由は直子が子供を産みたいからでした。
これは種の本能なので、本音ではないにしても建前でもないでしょう。
結婚とは男女の種としての本能を合法的に形式化するものでしかありません。
直子はそういう意味で自分の本能に素直に生きている人なのです。
では、この結婚が本心からのものだったかというと違っています。
体裁を整える
2つ目に、直子が結婚をするのは決して本心ではなく体裁を整える為です。
本編に登場しない結婚相手は自衛官であり、確かに傍目に見れば立派な男でしょう。
しかし、これはいってみれば「ステータス」であって「人間性」ではありません。
実際直子は結婚相手に対して全くといっていい程好意を寄せていないのです。
ここから察するに彼女は世間体がどうしても気になってしまうタイプではないでしょうか。
賢治と会う口実を作る
後に考察する結婚前に体を重ねた理由とも関連しますが、結婚式は実は建前です。