遼一は、結婚を覚悟するほど杏子を愛しています。
好きな人の記憶を消し続け、その好きな人には結婚を考えるほどの人がいる。
真希にとっては、記憶屋としての罪悪感だけでなく、一人の女性として恋に破れたつらさも感じる状況なのです。
このつらさをラストシーンで絞り出していたのです。
遼一の正論と言い返せないつらさ
遼一が記憶屋の正体を追い続けたのは、記憶を消すことが決して誰にとっても良い事とは限らない、と考えているからです。
「もしかすると」が人生では起きるかもしれないし、どこかで嫌な記憶を起点に成功できるかもしれません。
遼一が語る正論に、記憶屋である真希は何も言い返すことができないのです。
結局遼一が自身の正論にたどり着いても、真希は遼一の記憶を消して、無限ループ状態が続きます。
自分の役割に意味を見いだせないまま、仕事をこなすのはつらいことでしょう。このつらさが、ラストシーンで出たのです。
記憶屋河合真希への道筋
遼一は、記憶屋が幼馴染の河合真希だと気付きますが、一体それはなぜでしょうか。
遼一は何度か「記憶屋河合真希」へとたどり着いたことがあるようです。ここではその道筋を考察します。
真希の祖父が記憶屋
真希の祖父が記憶屋だということが、遼一にとっては記憶屋の正体に気付く決め手となりました。
消されたはずの幼い記憶を、そして記憶屋の正体を真希が覚えていることは不自然です。
遼一は、ここで真希と記憶屋が特殊な関係であることに気付いたからこそ、記憶屋の正体にたどり着くことができました。
憎むべき相手出ない記憶屋
死んだ高原の妻から遼一は手紙を受け取り、記憶屋は「憎むべき相手ではない」こと知ります。
つまり遼一にとっては、身近な存在であり、少なくとも遼一を応援したり支えたりしてくれる相手だということです。
杏子は、記憶屋によって記憶を消されているので、杏子ではありません。
そう考えると遼一にとって身近で、支えてくれる「憎むべきでない」相手は真希だと勘づくのです。
公園+緑のベンチ
映画冒頭から、「公園+緑のベンチ」が記憶屋のヒントであることは語られています。
その刷り込まれたイメージの中、ラストシーン直前には公園の緑のベンチに座る真希を見て、遼一の脳裏には記憶屋と真希がつながりました。
しかしこの時点では、まだ真希の正体が記憶屋だという「ありえない話」で終わっているのです。
それでもつながっている記憶屋のヒントと真希が、真希に疑いをかけるきっかけとなりました。