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映画【新聞記者】は真実を追究しようとする若手女性新聞記者と、体制からの圧力と良心の狭間で揺れる官僚を描いた社会派サスペンスです。
日本で現実に起こった事件を題材にしている部分もあり、大きな社会的反響を呼びました。
映像と音響を巧みに組み合わせた衝撃のラストシーンは絶妙な余韻を残しています。
松坂桃李とシム・ウンギョンの演技にも目を見張るものがありました。
この作品は第43回日本アカデミー賞において、最優秀作品賞とともに最優秀主演男優・女優賞を獲得しています。
羊の絵
この作品で最も印象的なのが全編を通じて映し出される羊の絵です。
この羊の絵は杉原の元上司神崎によって描かれたものですが、彼はこの羊の絵にどのような思いを込めていたのでしょうか。
映画の中でこの羊の絵が象徴するものとして、アメリカ・ユタ州にある生物兵器実験場の近くで大量の羊が死亡したことが説明されます。
しかし神崎がいいたかったことはそれだけではなさそうです。それが証拠に羊の目はまるで盲目のように黒く塗りつぶされていたのです。
羊は国民のこと
神崎が羊の絵に込めたのは、権力によって如何ようにも操作されがちな世論や一般国民全般ではないでしょうか。
大衆が見たい真実を見せることこそが重要で、何が真実かは問題ではないと杉原の上司である多田は考えています。
杉原らはその方針に沿って大衆を誘導するように、ネットなども駆使して日々情報を操作しているのです。
神崎は国民が国家権力によって迷える子羊のように扱われているといいたかったのでしょう。
また神崎自身が上からの命令に逆らうことができず、ただ従順に従うことしかできない羊のようだという自嘲も含まれていたのかも知れません。
目が黒く塗られた羊
羊の目がサングラスをかけたように黒く塗られていたのは、羊が盲目にされているという意味です。
神崎は盲目的に国家権力に従わされ続けている国民と盲目的にその片棒を担がされている官僚がいる現実を説きたかったのではないでしょうか。
いい方を変えれば吉岡らマスコミに「目を開けて真実を見よ」といいたかったのです。
羊の絵を送った理由
神崎は不正に手を染めた自分自身と家族の幸せの狭間で悩んでいました。
送られてきたFAXにある羊の絵と同じものが神崎の子供の落書き帳にありました。
神崎は家族のことも思いながらこの羊の絵を描いたに違いありません。
神崎は盲目の羊に込めたメッセージを発信するとともに、資料のどこかに自分自身をマーキングしたかったのかも知れません。
杉原の「ごめん」
正確には二回目の「ごめん」は言葉にならなかったのですが。
二日目の「ごめん」は唇の動きとそれまでの経緯でそのように判断されるのです。
どちらの「ごめん」もジレンマの中で苦悩する杉原が絞り出した言葉でした。
ラストシーンの言葉の真意
杉原は吉岡に対して自分の覚悟を実名報道という形で示していたはずです。
にもかかわらず彼は駆けつけた吉岡になぜ謝らなくてはいけなかったのでしょうか。
そこには多田の杉原に対する一種の脅しがありました。
外務省に戻す代わりにこの件に関して知っていることを全て忘れるという条件を突きつけたのです。