ヴィンセントが自我の底に押し込めたかった厳しい父親のイメージそのものといえます。
それが頭を打ったショックで自我の表面に漏れ出してきたのでした。
ヴィンセントはこの強迫観念をエネルギーにします。
常識では不可能と思われるカンザスからニューヨークまで光ファイバーをまっすぐに引くというプロジェクトに邁進するのです。
歴史を見るまでもなく、世界は何かに突き動かされた非常識な人々が常に新しい境地を切り拓いてきました。
アーミッシュに対する意識の変化
口と金にものをいわせてきたヴィンセントの買収にどうしても応じない集団が出現します。
神の信仰だけに生きるアーミッシュたちです。彼らには耳触りの良い弁舌も大金による買収も通用しません。
やがてヴィンセントは彼らとの出会いの中で人生において本当に大事なものに無意識に気づいていくのです。
最初の出会い
最初にヴィンセントがアーミッシュに出会ったとき、彼にはさほど大きな問題意識はなかったことでしょう。
金と巧みな弁舌で押し切れると考えたに違いありません。
でも彼らはヴィンセントたちの価値観の外にいました。彼らにとって早さや金銭的豊かさはむしろ悪だったのです。
最初の出会いではヴィンセントたちとアーミッシュは交わることなく、アーミッシュはヴィンセントにとって邪魔な岩に過ぎませんでした。
再訪問の意味
胃がんに冒され、あれほど執着したプロジェクトも頓挫したヴィンセントは再びアーミッシュの村に向かいます。
彼はこの時点で父親の呪縛からもウォール街の野望からも解放されていました。
残り少ない命と向き合うことによって人生で何が重要なのかに気づいたのです。
それは決して早さでもなく金銭的な豊かさでもありませんでした。足を知る生き方こそ重要でした。
ヴィンセントはそれを確かめるためにアーミッシュの村に向かったのです。
アントンを突き動かすもの
ヴィンセントの従兄弟であるアントンは天才でした。通信を制御するプログラムのコードを書き続けていました。
彼の夢は金銭的な成功でもなく、もちろん地位や名誉でもありません。彼は丘の上の静かな環境の中で思う存分コードを書きたかったのです。
そこには愛する家族がいて欲しいとも思っていました。
限界への挑戦
アントンがヴィンセントの誘いに乗って会社をスピンアウトしたのは自分の力を試したかったからです。