ピエールは、そんなマチューの本能的な部分に気がついたのかもしれません。
環境が作り出したピアニストではない
ピエールがマチューに初めて会った時、マチューが恵まれた環境にないことはわかっていたはずです。
実際にシングルマザーの母は、苦労人で貧しい生活をしています。
彼のピアノ演奏は、環境が作り上げたものではないとすぐに気がついたことでしょう。
人はその環境次第で秀才になることは可能です。
子供の頃から英才教育を受け、ピアノが弾ける環境にあれば人はピアノを弾きこなすことが出来るでしょう。
しかしマチューは、環境が作り上げた演奏者ではありません。
ピエールは、そんな彼の演奏に天が与えた才能を感じとったはずです。
マチューを大切にする訳
正式な学園の生徒でもないマチューですが、なぜピエールは彼を大切にしたのでしょう。
息子の姿を重ねていた
ピエールは以前息子を白血病で亡くしており、その息子の姿をマチューに重ねていたのでしょう。
息子が目指したピアニストへの夢を、マチューに託したかったともとれます。
マチューは自分の持つ才能を自覚しておらず、持て余しているような状況です。
叶えたくても叶えられなかった息子の夢…。
マチューなら叶えることが出来る、ピエールは息子とピエールを同一視していたのでしょう。
音楽院の為
自身の音楽院からピアノコンテストの優勝者が出ないピエールは、どうしても優勝者を出したかったはずです。
マチューの演奏を聞いた瞬間、彼ならば優勝出来ると確信したのでしょう。
ピエールが求めていた人材だったからこそ、大切に育てていたとも解釈出来ます。
音楽院から優勝者を出せば、音楽院の価値を存続出来るのです。
どうしてもピエールにはコンクールに出てもらいたい、その願いがあったからこそ根気強く彼を育てたのではないでしょうか。
教育者としての想い
ピエールは自分の為だけに、マチューを大切にしたわけではありません。
自分に誇りを持ちなさい
私は音楽で迷子になる、しかし君はその中で自分を見つける、天才なんだよ
引用:パリが見出したピアニスト/配給会社:マース・フィルム
上記は、なぜ自分を優遇するのか問いかけるマチューへの答えです。
ピエールは教育者として、マチューの居場所を指し示しています。
自分と同じ後悔をさせたくない、自分とは異なる道を進んで欲しい、そう願っていたでしょう。
天才であるということを、マチューに認識させたかったのです。