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映画『トゥレップ〜「海獣の子供」を探して〜』は2019年に公開された特殊な構成の異色作です。
監督は山岡信貴、主演にアングラード役の森崎ウィンを据え脇を原作者・五十嵐大介らが固めます。
姿を消した1人の男と残された6本のビデオテープを元に制作されたモキュメンタリーです。
ドキュメントとしての完成度やインタビュー映像のクオリティなど全編を通して見応えがあります。
それぞれの専門家の見地から人類が水中で暮らす可能性を模索・追求し真実に迫っていくのです。
本稿では是非この取材の内容を中心に細かく解説していきましょう。
また、森崎が迫ろうとしたものや学者の論と海獣の子供の繋がりも併せて紐解いていきます。
ドキュメントを通したアンチ・ポストモダニズム
本作は「海獣の子供」というタイトルこそついていますが、原作漫画・アニメを知らなくても楽しめます。
非常に深熊手考察されていますが、メインテーマはドキュメントを通したアンチ・ポストモダニズムです。
6本のテープには「海獣」「海」「生命」「神話」「対話」「宇宙」というテーマがあります。
それぞれのテーマには直接の関連性はないものの、それを森崎ウィンの物語へと繋げていくのです。
そうすることによって人間を理性のみで社会を形作ろうとするポストモダニズムから解放していきます。
一見難解な学者の論をかざしつつも根底の部分はとてもシンプルな生命の根源を描いているのです。
この構造を最初の段階で理解しておくことで、本作が目指そうとするものが見えるようになります。
取材の内容
それぞれまるでジャンルも何もかもが異なる専門家の取材の内容はどれも凄く深いものでした。
ここではその取材の内容についての共通項や読み取れるテーマなどを考察していきます。
人間は水棲動物と陸上動物の架け橋
特に二木さんのインタビュー映像では人間は水中入ると体が水中モードに切り替わるそうです。
哺乳類の中でも水陸両用のモードを使い分ける器用さは人間が先天的に持っているものなのだとか。
確かにイルカなど水中で生息する哺乳類は居ますが水中でも適応できるのは人間だけかもしれません。
そういう意味では人間という生き物は水棲動物と陸上動物の架け橋であることが推測されます。
これは複雑で高度な文明を築き上げてきた人間という生き物の常識を根底から覆す論です。
人間という概念すらもなくなる
2つ目に人類学者の中沢新一さんの「人間はなくなる」という内容が非常に鋭い指摘でした。
人類・人間というカテゴリーはもちろん人間という存在そのものがなくなるそうです。
確かに人間は松明のようにして命を宿し子孫を残してどんどん次の世代へと託していきます。
そして最終的には死という形で全てがなくなっていくという無の境地に達するのです。
しかし、これは人間に限ったことではなく生きとし生けるもの全てがそのように出来ています。
この観点から見ていくと、最終的に「無」という形で人間という幻想の概念すらも消失するのです。
文明社会からの解放
上記した2つ以外の取材内容も含め大方共通しているのは「文明社会からの解放」でありました。
それは2019年という平成から令和という時代の移り変わりと切り離すことはできません。
平成という時代は人間にとって劇的な科学技術の発展とそれに伴う生活水準の向上を可能にしました。