一般人と囚人の乗るフェリーに爆薬を仕掛けたシーンです。
このシーンではどちらもスイッチを押さなかったのですが、囚人たちの方が正義感が強く描かれています。
善良とされる市民は自分は悪者になりたくないけど、死にたくもないから誰かスイッチを押して欲しいと願います。
囚人たちの船ではスイッチを海へ投げ捨てています。
世間的に悪とレッテルを張られた者たちの「正義」を描くことで、悪と正義の境界線を曖昧にしているのです。
人の奥にある正義
自分達が助かりたいと願っていた市民たちも、囚人たちが起爆スイッチを押さないことで眠っていた正義の心を取り戻しています。
この時点でジョーカーは賭けに負けたことになるのです。
誰でもジョーカーになる可能性がある
「ダークナイト」は重い映画として有名で、その重さこそが癖になる名作です。
映画を観た後の重さの理由の一つがジョーカーの存在感であり、自分の中に潜む「悪」を認識するきっかけとなるからです。
人は環境次第で善にも悪にも染まる
劇中のジョーカーは様々な名言を残していますが、下記の言葉もその一つです。
人間が善でいられるのは、奴らを取り巻く環境がいいから
引用:ダークナイト/配給会社:ワーナー・ブラザース
日本は特に治安も良く、悪になる環境とは縁遠いといえます。
しかし世界へ視野を広げると、犯罪が身近で当たり前に存在する環境も多数あります。
人は環境次第で簡単に悪に染まるのです。
正義が大切といえるのは、偶然育った環境が良かった為ともいえます。
ハービーが示すもの
迷いのない徹底した悪人ジョーカーが人気
ジョーカーは人の持つ悪を徹底的に表に開放しています。
見方を変えれば、偽善的につくろう人々の皮をはぎ取ろうとしているのです。
一切偽善のないその行動に不思議な魅力を感じる人も多いようです。
ジョーカーを演じたヒース・レジャーは6週間人との接触を避け、サイコパス(精神異常者)になりきりました。
この徹底した役作りがジョーカーを生み出していたのです。
バットマンの中の狂気
バットマンが劇中でジョーカーを殴り続けるシーンがあります。このシーンにドキッとした人もいるのではないでしょうか。
実はこのシーンは意図して撮影されたもので、バットマンの中にある悪の心を表現しています。
正義だと思っていたバットマンが狂気をまとい、恐ろしく感じる瞬間です。この時に善と悪の境界線は完全に崩壊しました。
ジョーカーに惹かれるのは彼が正しいことを言っているから
ダークナイトは、バットマンの正義感を試される作品です。
本作は主役となるバットマンより、悪役のジョーカーの方が人気が高いという異質な映画でもあります。
その理由は彼の偽りのない言動にありました。
人の本性の暴き方が徹底している
人は他人の本心や本性を知りたいと思う時があります。
ジョーカーはそんな欲望を全開にし、痛快なほど人の本性を引きずり出しています。
ジョーカーはサイコパスですが、彼が放つ言葉は人間の奥底に眠っている真実の言葉なのです。
目的は人間の悪を引きずり出すこと
ジョーカーは人を殺すのを目的として楽しんでいる訳ではありません。
善良と呼ばれる人々に潜む悪を引きずり出すことに、快感を感じているのです。
その手段として究極の二択を準備します。殺人に手を下すのは善良である人間という構造です。
このことで人は心の闇に正面から向き合うことになります。
そしてジョーカーは、ヒーローであるはずのバットマンの闇を要所要所で、引き出します。
この展開に、観ているものはバットマンにどんな闇が潜んでいるのか目が離せなくなってしまいます。
単なるヒーロー映画じゃない深みを味わえる
「ダークナイト」は完全懲悪のヒーロー映画ではありません。
悪と善の心を持つバットマンが、正義とは何かを迷い翻弄される奥の深い作品です。
人間の持つ二面性に恐怖感をプラスした正義を問う超大作です。
答えの出ない問いかけなだけに、人は何度も繰り返し観たくなるのではないでしょうか。
ハリウッドのヒーロー映画をリブートさせた『ダークナイト』
『ダークナイト』は長年低迷していたハリウッドのヒーロー映画を復活させた作品としても知られています。その理由を探ってゆきましょう。
ニューヨーク9.11テロに飲み込まれたヒーロー映画
原作が共通するシリーズ映画で、それまでとは違う新たな道を開拓することをリブート・再起動といいます。
『ダークナイト』はその意味でハリウッドのヒーロー映画全体をリブートさせたともいえるでしょう。
ヒーロー映画を新たなステージに押し上げたのです。そこには当時の時代背景も大きく絡んできます。
2001年アメリカで9.11テロが起こり、ハリウッドも時代の大波にさらされました。
映画のヒーローは忘れられ、消防士や兵士といったリアルなヒーローが英雄視されるようになります。
映画もまた『ミスティック・リバー』など庶民を描いた重厚なドラマに人気が集まりました。
『華氏9.11』などマイケル・ムーアの政治的なモキュメンタリー・ブームもまたこの時代の映画を象徴しているといえるでしょう。
そんな中でアクション・ヒーローは完全に居場所を失ってしまいました。
ハリウッド衰退の使者となったダークナイト
2008年公開の『ダークナイト』はそんな時代の逆風を跳ね返します。大ヒットを果たした上にヒーロー映画の最高傑作だと絶賛されました。
『ダークナイト』はアメコミのヒーロー映画でもドラマとしてリアルな英雄や正義を掘り下げることができることを証明したのです。
この成功によって子供だましでしかなかったヒーロー映画は初めて高く格付けされ、新たな時代の認証を受けたといえるでしょう。