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【メゾン・ド・ヒミコ】はゲイだけが集まる老人ホームが舞台の物語です。
いわれてみれば確かにあってもいいシチュエーションで、ある意味目から鱗の設定といえます。
そこにナチュラルな沙織が関わってくれば当然波乱が予想されるのです。
心と体の性が異なっていたり、性的指向が通常と異なっていたりすることに関して本人の罪はありません。
この物語は理屈ではわかっていても現実にそれを受け入れることの難しさと重要性を感じさせる野心的な作品です。
老人ホームの壁に書かれた落書き
沙織が勤める塗装会社の専務たちと訪れた老人ホームの壁には「サオリに会いたいピキピキピッキー」と書かれていました。
沙織をこの老人ホームに呼び戻す妙手ともいえる手で、誠に心憎いやり方です。
この落書きの真意を探ってみましょう。
誰が書いたのか
この落書きを書いたのは老人ホームのゲイたちでした。
直接沙織に会いたい旨伝えるのではなく、わざと落書きして塗装屋に勤める沙織が来ざるを得ないように仕向けたのでした。
老人ホームのゲイたちが集まって知恵を絞っている姿が目に浮かぶようです。
彼らは沙織が最早ゲイに対していわれなき偏見を抱いていないことを理解していました。
それどころか彼女を仲間として受け入れていたのです。彼女のことが皆好きになっていました。
言葉の意味は
「ピキピキピッキー」は魔法の言葉です。彼らの願いが込められた言葉でした。
やや遠回しに意図を伝えるやり方や、可愛らしい言葉を添えるメッセージは如何にも女性の感覚です。
まさにゲイである彼らなりのセンスがうかがえる表現といえます。
「サオリに会いたい」は彼らの希望であって、それをどのように受け止めるかを沙織に委ねた言葉ともいえるのです。
沙織はどう受け止めたのか
でも沙織がどのように考えているかについては必ずしも自信がなかったかのかも知れません。
父親のヒミコが亡くなった今、沙織がこの老人ホームと関わりを持つ必然性は全くなかったのです。
でも沙織は最初にこの老人ホームを訪れたときの彼女とは変わっていました。
彼女はゲイの老人たちの苦悩も優しさも、そして彼女に対する好感も理解していたのです。
もちろん一時心惹かれた春彦に会いたい気持ちもあったことでしょう。
沙織は父親を許したのか
さて結局沙織は自分たち母子を捨てて、自分の生き方に従った父親を許すことが出来たのでしょうか。
頭で理解することと心で許すことは全く別です。
彼女は死にゆく父親に対して、「母のためにも貴方を許さない」といい、父親はそれに対して「自分は貴女のことが好きだ」と返しました。