彼は沙織の上司である塗装会社の専務までも自分の欲望の対象にしようとしましたし、これまでも普通の男性をゲイの世界に引き込んでいました。
春彦の心は沙織を求めていました。そこには性的な欲望以上のものがあったのではないでしょうか。
かれは自分の心にしたがって沙織と体の関係を結ぼうとしますが失敗しました。
心で惹かれ合っても体がそれを拒否してしまう悲劇があるのです。
沙織と山崎
沙織は山崎の願望を理解します。山崎は女性として思いっきりおしゃれをしたかったし、女性用化粧室で化粧直しもしたかったのです。
それは心が女性の山崎であれば当たり前の願望でした。
そんな山崎がかつての仕事仲間にゲイであることを理由に屈辱的な目に合わせられます。
それを決して許そうとしない沙織を目にして、春彦は彼女に対する思いを一層強めたのではないでしょうか。
少年が手伝ったわけ
悪ガキグループのリーダー格であった少年には秘密がありました。
彼の心の中には女性である部分が眠っていたのです。
彼は薄々それに気づいていました。老人ホームのゲイたちにやたらと絡むのはそれを意識していたからではないでしょうか。
彼はそのような自分を抑える事が出来なくなり、仲間の少年グループに別れを告げて、老人ホームのゲイたちとお盆の準備をしたのです。
少年はやっと老人たちと仲間になりたいという願望を叶えることが出来ました。
それを自然と受け入れる老人ホームの彼らの優しさには心打たれるではありませんか。
ルビーの行く末
さて、これからのルビーの行く末が気にかかるところです。
沙織はルビーの息子家族と自分を重ね、裏切られる側の立場に立って老人たちの対応を非難します。
でも他にどのような対応が可能だったのでしょうか。
彼らはルビーの家族たちも沙織や沙織の母のようにルビーのこれまでの苦悩や人間としての優しさを理解してくれることに望みをつなぎました。
このエピソードにはLGBTの高齢化と介護問題に対する問題提起がさりげなく盛り込まれていることに着目すべきです。
愛と欲望、心と体を問いかける【メゾン・ド・ヒミコ】
愛がなくても欲望を止めることは難しく、また心同士が求め合っても体が拒否してしまう悲劇もあるのです。
愛と欲望、心と体、それぞれどちらが大事なのでしょうか。LGBTの世界ではこのようなテーマが極端な形で現れます。
映画【メゾン・ド・ヒミコ】はコミカルなシーンも部分的に挟みながら、このようなシリアスな課題を我々に示しているのです。