また、美容室という家族にとって大切な場所そのものへの最後の花道の意味もあったと思われます。
伸行にとって、里香が神を切るのはこの場所でなければならなかったのです。
犠牲にならなかった里香
伸行と里香が出会うきっかけとなったのは、里香が「ひとみ」という名前で管理人を務めるブログでした。
想い出の小説「フェリーゲーム」のことを綴っていた里香。その小説のラストの男女の別れは、映画での里香の状況と重なります。
里香は難聴のため、綺麗事だけでは生きていくが難しいと誰よりも知っていました。
そのため、例え自分に好きな人ができたとしてもやはり自分がいない方がその人のためになる。
自分が犠牲になる。そのように考えていたことが、里香のブログの内容から伺うことができます。
しかし、小説のヒロインと違って里香は犠牲にはなりませんでした。
里香がそうならなかったのも、伸行との出会いと髪を切り自分をさらけ出すという提案があったからです。
小説のラストを読み、里香の心に突き刺さったと語られる棘。その棘は、伸行との出会いで消えました。
補聴器を隠した理由
里香は最初に伸行に会った時に、補聴器を隠していました。その理由は何だったのでしょうか。
普通の人間として接して欲しい
里香が補聴器を隠していたのは、伸行に自分を普通の人間として接して欲しかったからです。
難聴だということが分かれば、伸行の自分を見る目は同情に変わる。
仕事もきちんとやっていて、社会人として何の引け目もなく生きようと考えている里香にはそれは耐えがたいことでした。
そのため、里香は最初補聴器のことを伸行に隠していたのです。
周囲の視線が気になる
もう一つの理由が周囲の視線です。
映画には繰り返し、伸行と里香の周りを行き交うカップルが移されます。様々なファッションに身を包む女性達。
その中にあって、補聴器という必要とはいえファッションではないアイテムを着けているのを見られることは年ごろの女性である里香は嫌だった。
また、気づいた人が投げかけてくる同情や奇異な視線も里香は嫌だったのでしょう。
そのために里香は補聴器を隠していたと考えられます。
伸行の見送り断った真意
大阪から帰京後、里香は何故伸行の見送りを断ったのでしょうか。
自分の意志で前に踏み出したかった
大阪で楽しい時間を過ごした里香。その姿はこれまでとは別人のようでした。
しかし、そのように振舞えたのも伸行が傍らにいたからでもあります。
里香もそのことをわかっていたのでしょう。だから、自分が本当に変われるか自分一人で試す必要があった。