一見女性を裏切ってばかりいるようですが、実は彼自身も女性から多くの傷を受けていたのです。
だからこそ逆に太宰は、自分を絶対に裏切らず受け入れてくれる女性を探していたとは考えられないでしょうか。
そう考えれば、何かを求め続けるように浮気をする行動にも筋が通ります。
どれだけ酷い目に遭わされても、太宰は女性に優しさと純粋さを求めることを最後までやめられませんでした。
それぞれの狂気
一般人からは想像もできない行動をとる太宰や女性達。彼らが宿した狂気とはどういったものだったのでしょうか。
死を省みない心
生涯で何度も自殺未遂を起こした太宰は、その経験ですら笑いながら周囲に話をしています。
最後の不倫相手となった山崎富栄も太宰と供に死ぬことを望んでいました。
「死ぬこと」に対して意識の低さこそ狂気であり、普通の人間にはなかなか想像できないものです。
もっといえば、太宰には死ぬことを経験することでそれさえ作品のネタにするという貪欲な探求心があります。
まさに狂気といえるでしょう。
愛という名の狂気
美知子は太宰に向かって、作品のために家族を壊せと伝えました。
静子は妻子を持つ身の太宰に子どもをねだります。これらはどちらも太宰を愛するが故の行動でした。
山崎富栄に至っては、心中することが太宰との愛を貫ける唯一の方法であるという考えです。
もちろん最初からそのような考えであったわけではありません。
しかし妻子の他に浮気相手との間にも子どもがいる太宰のことを知るうちに、富栄はそのような狂気を宿してしまいました。
愛するが故に、相手や自分が壊れることもいとわないという気持ちも狂気といえます。
小説で純粋な愛も描いたことがある太宰ですが、彼の周囲には純粋過ぎたが故に狂気に変わった愛が潜んでいたのです。
真に狂気的なのは誰
果たして作品の中で真に狂気的なのは誰だったのでしょうか。
作品を追っていくと、結局のところ登場する人物全員が狂気的だったということになります。
太宰や3人の女性はもちろんのこと、太宰の状態を知りながら彼に作品を書かせようとする出版社の人々も狂気的でした。
結局太宰を止めることができず、作品を書いて欲しかった佐倉にも狂気があります。
特定の誰かではなく人は誰もがその心の中に狂気を宿しているのです。
この世界の誰もが太宰や3人の女性のようになる可能性を秘めています。
富栄の絶望とは何か
最終的に太宰と心中を成し遂げた富栄。彼女の絶望とは何だったのでしょうか。
子どもを持てない苦しみ
佐倉が静子の弟の薫を連れて来たことにより、富栄は太宰と静子との間に子どもがいたことを知りました。
半狂乱になる姿に彼女が絶望していることを伺えます。