何にでも成れるということは何者でもないということとほぼ同義です。
彼の生き方はまさにこのワイルド・カードだといえるのではないでしょうか。
頼まれれば一芝居をうって依頼者が彼女の前でかっこいい男であるかのように見られるように殴られ役もやるのです。
元カノの依頼で命がけの復讐劇にも一役買います。
これらの行為は彼の男としての美学や、もちろん正義感に駆られての行動などではないのです。
彼の人生はある意味行き当たりばったりの成り行き任せの毎日といえます。
もちろんそんな毎日に彼は満足しているわけではありません。何らかの刺激が必要だったのです。
ギャンブル依存症になったわけ
彼がギャンブル依存症になった理由はこのような彼の毎日に秘密がありそうです。
ニックにとっては街のギャングたちとのいざこざや殴られ役になることは何でもありません。
極めて日常的な出来事で、ある意味退屈なことなのです。
そんな彼の心を熱くたぎらせる唯一のものがブラックジャックなのでした。
彼にとって予想可能な毎日とは異なり、ブラックジャックでは何が起こるかわかりません。
ニックはこの刺激的な快感を捨て去ることができなかったのです。
ブラックジャックで次のカードを引くか引かないかは彼の決断にかかっています。
そうです。このときだけが彼が自分の意志で物事を決している唯一の瞬間だったのです。
ニックはサイラスに何を見たのか
そんなニックにとってサイラスは一人では何もできない弱虫に映りました。カジノに一人で行くこともできないのですから。
しかしニックはサイラスと触れあっていく中で、自分もサイラスと大差ないことを見いだします。
ニックはギャンブルやアルコールに依存しなければ生きていけません。
ニックも自分の人生を自分の意志で決めることができない弱さを持っていたのです。
人は自分の弱さを自分だけで認識することは難しいのかもしれません。
ニックもサイラスという他者の目を通じて始めて自分の弱さを認識することができるようになったのではないのでしょうか。
勇気を見つけたサイラス
ニックもサイラスも持ちつ持たれつだったのです。
一見ニックに依存しているだけのように見えるサイラスもニックに大きな影響を与えていました。
サイラスはニックと付き合う中で意気地なしは自分だけではないことに気づいたのです。
そうなれば相対的に自分にも少しの勇気があることを自覚できるようになるのではないでしょうか。
なぜ急に歌い出したのか
彼はニックの危機を察知し注意を自分に引きつけるために急に立ち上がって歌い出しました。